「あの…何から何までありがとうございました」 リビングへとやってきて礼を言う彼女は、置いておいた俺のシャツとズボンを身につけ…なぜかお腹の辺りを握り締めていた。 「いえ……どうかしましたか?お腹の調子でも…」 「あっ、いえ、これは…」 なんでもないです、と小さく呟く彼女。 彼女が着ると膝まである自分のシャツから覗く湯上りの上気した肌に、つい目が行ってしまう。 一番上だけボタンの外されたシャツは、そもそもの首周りが違うせいか鎖骨から少し下辺りまでをも露にしている。 捲くられた袖は…何重に折られているのか分からない。 自分のシャツが、彼女の白く小さな身体を強調させていた。 「こちらへどうぞ…温かい飲み物をいれてありますので」 「はい…っ…へぷしゅっ」 「っ!!!」 「あっ!!!」 彼女をソファへと招き、歩み寄ってきたその時。 くしゃみをした彼女は、癖なのか鼻と口を両手で覆った。 それと同時に、握り締めていた手を離された腹部から…ズボンがすとんと床に落ちる。 咄嗟に顔を背けたものの、一瞬見えた彼女の白い足が目に焼きついて…耳まで熱くなっていく。 「すっ…すみません…ゴムが、その、ゆるくって…押さえてないと」 「いえ、こちらこそすみません…丁度良い着替えがなくて」 どんな顔をしていいか分からず、口元を手で覆いながら、再びズボンを掴み上げてソファに座った彼女の背後を通りすぎる。 「ココア、飲んでいてください。乾燥機見てきます…」 俺はそう言って彼女の返事も待たずにリビングを足早に出た。 脱衣所に着くと乾燥機には目もくれず、洗面台に手をついて大きく息を吐く。 「はぁ………」 何をしているんだ、俺は。 彼女は総理のお嬢さんで… 護るべき対象で… それなのに…男の目で見てしまう自分がいる。 純粋で、芯が強くて、ほがらかで、可愛らしい彼女は、部下たちを簡単に惹きつけている。 俺自身、あいつらと同様に彼女に惹かれているのは分かっている。 だが、分別ある大人として、そんな感情は見過ごしておかねばならない。 そう分かっているのに…分かっていたハズなのに。 治まらない激しい鼓動は全身が心臓になってしまったかのように、ドクドクと脈打つ。 必死で心を落ち着かせようとしていると、ピーと乾いた電子音が響いた。 |