綺麗な、だけど空っぽな感じのする桂木さんの部屋。 来たのは初めてで、というかまさか来ることになるとは思ってなくて。 キュウキュウと悲鳴を上げる胸が苦しくて、まともに顔も部屋も見れないままお風呂場まで来てしまった。 きちんと片付けられたタオルや棚に囲まれた脱衣所の中で、洗う服の入った洗濯カゴだけが生活感を滲み出していた。 下着以外を乾燥機に入れて、温かなシャワーを浴びていると、曇りガラスの向こうの…更に向こうの方から水音に混じって聞こえる桂木さんの声。 「服が乾くまで着てもらえるものがないので…一応私のシャツとズボンを置いておきますね」 シャワーを浴び終え扉を開けると、タオルの横に言われたとおりの着替えが置いてあった。 乾燥機はまだ動いているようなので、タオルで身体を拭き終わった後、用意された着替えに手を伸ばした。 広げてみれば私の膝辺りまであるワイシャツ。 大きなそのシャツは、新品のようにパリッとはしていなくて…襟と袖の柔らかさから桂木さんの着慣れているものだと分かる。 広げていたシャツを、思わずぎゅっと抱きしめた。 洗剤の香りが鼻をくすぐり、シャツを抱いているだけなのに、甘い喜びで胸が溢れる。 恋しい人の着ていた、というだけなのに…ただのワイシャツが宝物のように素晴らしいものに思えて、袖を通すと心が震えた。 完全にシャツを羽織った所で、今度は自分の身体をぎゅっと抱きしめた。 桂木さんに抱きしめられているわけでもないのに、こんなに嬉しいなんて…喜びと同時に胸を締め付ける切ない気持ちが、目頭を熱くする。 総理の娘…以上には見てもらえないと…分かっているのに。 それでも、やはり、 好きなのだと…心は懸命に叫んでいる。 飛び出してしまいそうな心を押さえるように、自分を抱く腕にぎゅっと強く力を込めた。 |