痕 仕事後、帰宅した一人の部屋。 風呂上りに髪を拭きながら、冷蔵庫からビールを取り出して、ふと思いつく。 あ、そういえば。 視線を向けた先には壁にかかったカレンダー。 年末年始と忙しくてすっかり頭に無かったその存在。 「買うの、忘れてたな……」 昨年の12月のままのそれを外そうと手を掛け、止めた。 甦るあの日の記憶が、俺の身体を停止させた。 あの日。 ふらふらとおぼつかない足取りで帰り着いた俺の意識は、何事も無かったかのようないつもの自分の部屋を見た瞬間、爆発した。 全身を烈火のごとく襲う激情を搾り出そうとする喉は、既に潰れて泣き声すらも掠れてしまう。 「…っ!!!……ぁああっ!!!」 堪え切れない感情は身体を勝手に突き動かし、俺は頭を激しく掻きむしる。 痛みに耐えるようにぎりぎりと歯を食いしばり、手近にあったガラス製の灰皿を力任せに壁へと投げつけた。 鈍い音を立ててぶつかった灰皿は少し砕け、壁は緩い三日月状に陥没した。 「………はぁっ…はぁっ……うぅっ……」 溢れるままにしていた涙の乾いた上を、更に温かいものが流れ落ち、燃え盛る胸の炎を鎮火した後には深い喪失感が全身を支配した。 そのまま膝を抱えてうずくまった俺は自身の体温にすら苛立ち、冷たい床へと四肢を投げ出して天井をぼんやりと見つめながら思考を停止したのだった。 |