Dream

□デート
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デート






眼前には激しい水しぶきを上げる滝。


濃い緑が生い茂った空間。
薄暗い滝つぼに滴り落ちる水はより白く浮かび上がる。

真夏だということを忘れるようなひんやりとした空気は、マイナスイオンや、何か身体に良さそうなものが沢山含まれているような気がして、自然と胸いっぱいに吸い込んでいた。


「遠くで見るとサラサラした綺麗な感じだったのに、近くに来ると迫力ありますね」

「…あぁ、そうだな」


響く水音に負けないように大きな声で行って振り返ると、後藤さんは短い返事をしてぼんやりと私を見ていた。




違う。




見ているのは、後藤さん自身の胸の中。

思い出の、景色。




最初に気づいたのも、そういえば滝だった。

もともと無口な後藤さんだけれど、この時間は更に押し黙って、意識をどこか遠くへ飛ばしている。



ここに、いるのに。



手を伸ばしても、届かないような気がして。

手を伸ばしたら、穢してしまうような気がして。



後藤さんがこの表情を浮かべたら、私はいつも黙ってじっとしていた。




思い出を見つめる時間を邪魔しないように。




ちくちく痛む胸は気づかない振りをして、

ぐるぐる悩みだす頭はからっぽにして、



そうやってしばらく待っていると、後藤さんの焦点がふと私に合う瞬間が来る。


その時、後藤さんは少しだけ泣きそうにも見える顔で微笑んでくれるから。

そしたら、ちくちくもぐるぐるも吹き飛ばして、私はにっこり笑うんだ。



お帰り、後藤さん。




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