とある喫茶店の日常

□喫茶〜夢居間〜
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―世界が暁を向かえる頃…
彼らはこの喫茶店へとやって来る。
闇と光の狭間の世界で、彼らは今日もこの場に集う。


―カラン、カラン…

空が真っ赤に染まる頃…
今日もこの喫茶“〜夢居間〜”にいつものお客がやって来た。

「いらっしゃい。」

夢居間のマスターが、やって来たお客に声をかける。

「どうも。」

スーツを着た、20代半ばほどの男が店の扉をくぐって来た。

「マスター、いつものでお願いします。」

席に着きながら男は言う。

「わかりました。ちょっと待っててください。」

そう言って、マスターは頼まれた品の準備に取り掛かる。

「今日は一番乗りですね。はい。出来上がりましたよ。」

しばらく経って、マスターは男に頼まれた品…珈琲豆の心地良い香りが漂うブラック珈琲を差し出した。

「有り難うございます。」

そう言って、男はマスターの煎れた珈琲を口にする。

「ふぅ…。やっぱり、夕方はマスターの煎れた珈琲に限るよ…。マスターの珈琲は最高ですからね。」

男は微笑みながらマスターに珈琲の感想を言う。

「江神さんにそう言ってもらえると、僕も嬉しいよ。」

マスターは照れ臭そうに笑いながら男…江神に礼を言う。
これがこの店の夕方の光景だ。
夕方の始めには、毎日必ずこの会話が聞かれる。

「それにしても…今日は山崎さん、遅いね。」

マスターが何と無く江神に呟く。

「…噂をすれば…ですね。山崎さん、来ましたよ。」

そう江神が言い終わると同時に、

―カラン、カラン…

店の扉の鐘が鳴った。

「いらっしゃい。山崎さん。今日は遅かったですね。」

マスターが店に入って来た、大柄の熊の様な体格で白衣を着た山崎と言う名の男に声をかける。

「まぁ…な…。マスター、珈琲を頼む。あ、砂糖とミルクは入れてくれ。」

「わかりました。」

山崎は江神の隣の席に着いた。
マスターに注文する山崎の声はいつもより元気が無いようだ。
そんな山崎を見て、江神は哀しみの顔をする。

「…山崎さん。大学で何かあったんですね…。」

「やめてくれ、江神…。何があったかは、もう分かっているんだろう?」

そう言う山崎に江神は申し訳なさそうに、

「えぇ…心を読みましたから…。」

と言った。
江神は能力を持っている。
一般的に“テレパシー”と言われ、相手の心を読んだり、自分の意思を直接相手の心に伝えたり出来る能力を使える。
それを、今山崎に使ったのだ。
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