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□トリップ
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久しぶりに、
ボールを蹴った気がする。

練習をするために速攻で買ったボールを蹴り、俺はシュートを決めた。
何故かスパイクだけ家にあったので、それを履いている。
履き心地は普通で、練習用にはちょうどよかった。
何回もシュートの練習を夢中でしていると、何か出来そうな気がしてきた。

あともう少し…!!

そう思った時、ふいに脳内で、唸り声が聞こえた。

−!!

唸り声に従うように、無意識に体が動く。
ボールを渾身の力で蹴り、同時に口から言葉が飛び出た。

「ヘルハウンド…ッ!!」

漆黒の狂犬が、吠えた。

□■□■□■□■□■□

思いもしなかった事にボーっとしていると、聞き覚えのある声が聞こえ、ハッとなった。

「すっげぇ!!
なんだ今のシュート!!」

気づけば、雷門サッカー部全員が河川敷に居た。

しまった。つい夢中に…。
いつから居たんだ!?

まるで悪戯が見つかった子供のように内心で慌てていると、
雷門サッカー部全員が俺の周りに集まっていた。

…囲まれた…!

何故か俺は危機感を覚えた。

「凄かったっスね!
今のシュート!」

「格好よかったでヤンス!」

うわ壁山と栗松とその他…。
何故そんなにキラキラした目をこちらに向けるんだ。

「今のは…犬か?」

多分そうだと思う。風丸。

「…けっ」

「…確かに凄かったな」

こっち見んな染岡。
豪炎寺…え?嘘、マジで?

「なぁ秋月!どうやって撃ったんだ今のシュート!?」

「…なんとなく」

1年生達以上にキラキラした目を向ける円堂に、俺は戸惑いながらそう答えた。

そんなに凄いか?
俺なんかよりお前らの方が…

「なんとなくで撃てるなんて
すげぇよ!なぁ秋月!俺達と一緒にサッカーしないか?」

「な…」

円堂の言葉に内心、サッカーがしたいという想いもあった俺はかなり動揺してしまった。

しかし、
何故か返事ができない。

突如フラッシュバックする、
死ぬ前の光景。

『蒼夜!
サッカーの練習しようぜ!!』

…サッカーさえ…

「………悪い」

俺はなんとかそれだけ言って、逃げるように走りだした。

「あっ!秋月!?」

サッカーさえしなければ…
死ななかったかもしれない。

ごめん。円堂。

□■□■□■□■□■□

「どうしたんだ秋月…?」

逃げるように走り去って行った後ろ姿を見て円堂は呟いた。

「…何か、
わけがあるんじゃないか?」

前の俺のように、と豪炎寺は
円堂に言った。
それに染岡が眉をしかめる。

「それにしたってよ、あの態度はどうかと思うぜ」

「そうっスね…」

染岡と壁山は秋月に冷めた印象を持ったようだった。

「けど…、
つらそうな顔だったな…」

「そうね…」

風丸の呟きに、マネージャーの木野が同意する。

何かを怖がって拒絶をしているような…そんな顔だった。

「うーん…。まぁ、とにかく、怪我で練習に来れない半田達の分まで練習しようぜ!」

『『おう!!』』

円堂の言葉にサッカー部全員が返事をした。

尾刈斗中の試合まで、
あと数日。
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