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□トリップ
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久しぶりに、
ボールを蹴った気がする。
練習をするために速攻で買ったボールを蹴り、俺はシュートを決めた。
何故かスパイクだけ家にあったので、それを履いている。
履き心地は普通で、練習用にはちょうどよかった。
何回もシュートの練習を夢中でしていると、何か出来そうな気がしてきた。
あともう少し…!!
そう思った時、ふいに脳内で、唸り声が聞こえた。
−!!
唸り声に従うように、無意識に体が動く。
ボールを渾身の力で蹴り、同時に口から言葉が飛び出た。
「ヘルハウンド…ッ!!」
漆黒の狂犬が、吠えた。
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思いもしなかった事にボーっとしていると、聞き覚えのある声が聞こえ、ハッとなった。
「すっげぇ!!
なんだ今のシュート!!」
気づけば、雷門サッカー部全員が河川敷に居た。
しまった。つい夢中に…。
いつから居たんだ!?
まるで悪戯が見つかった子供のように内心で慌てていると、
雷門サッカー部全員が俺の周りに集まっていた。
…囲まれた…!
何故か俺は危機感を覚えた。
「凄かったっスね!
今のシュート!」
「格好よかったでヤンス!」
うわ壁山と栗松とその他…。
何故そんなにキラキラした目をこちらに向けるんだ。
「今のは…犬か?」
多分そうだと思う。風丸。
「…けっ」
「…確かに凄かったな」
こっち見んな染岡。
豪炎寺…え?嘘、マジで?
「なぁ秋月!どうやって撃ったんだ今のシュート!?」
「…なんとなく」
1年生達以上にキラキラした目を向ける円堂に、俺は戸惑いながらそう答えた。
そんなに凄いか?
俺なんかよりお前らの方が…
「なんとなくで撃てるなんて
すげぇよ!なぁ秋月!俺達と一緒にサッカーしないか?」
「な…」
円堂の言葉に内心、サッカーがしたいという想いもあった俺はかなり動揺してしまった。
しかし、
何故か返事ができない。
突如フラッシュバックする、
死ぬ前の光景。
『蒼夜!
サッカーの練習しようぜ!!』
…サッカーさえ…
「………悪い」
俺はなんとかそれだけ言って、逃げるように走りだした。
「あっ!秋月!?」
サッカーさえしなければ…
死ななかったかもしれない。
ごめん。円堂。
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「どうしたんだ秋月…?」
逃げるように走り去って行った後ろ姿を見て円堂は呟いた。
「…何か、
わけがあるんじゃないか?」
前の俺のように、と豪炎寺は
円堂に言った。
それに染岡が眉をしかめる。
「それにしたってよ、あの態度はどうかと思うぜ」
「そうっスね…」
染岡と壁山は秋月に冷めた印象を持ったようだった。
「けど…、
つらそうな顔だったな…」
「そうね…」
風丸の呟きに、マネージャーの木野が同意する。
何かを怖がって拒絶をしているような…そんな顔だった。
「うーん…。まぁ、とにかく、怪我で練習に来れない半田達の分まで練習しようぜ!」
『『おう!!』』
円堂の言葉にサッカー部全員が返事をした。
尾刈斗中の試合まで、
あと数日。