歪みの国のアリス
白兎×亜莉子


「大丈夫?」
心配そうに覗き込んでくる琥珀色の瞳。僕はアリスのほうを向いて小さくほほ笑む。
「大丈夫だよ」
ありがとう付け加えてから立ち上がると、アリスの手がやさしく僕の体に添えられた。
そんな小さな心遣いがとても嬉しい。
しかし、僕の顔を見るなりアリスが叫んだ。
「嘘ばっかり!顔真っ青だよ!」
言うと同時に僕の顔を両手で挟む。すぐに、ぐいっと顔を近付けてきた。
その瞬間、僕の胸がとくんと高鳴る。

「う……ん、ごめんね」
目の前には怒り顔のアリス。
だけど僕は知ってるんだ、アリスの瞳は心配そうに揺らめいている。
柔らかな風がすっと僕の首を撫ぜた。
アリスの髪がふわっと靡く。

アリスはやさしいんだ、本当に。
この痛みの源がだれであったとしても、構わない。
僕はこのひとを守りたい。
大好きなんだ…アリス。

風が勢いを増してきた。
僕の頬に添えられた手の上にそっと自分の手を重ねる。
きゅと握ると、空いたほうの手でそのままゆっくりとアリスを引き寄せた。

指には柔らかいアリスの髪の感触。
悔しいけどこういうのを猫毛っていうのかもしれない。
ちゅ、と小さい音を立てて瞼の上に口づけた。
「え、えっ!何??」
風で細めていた瞳が驚いてまんまるに開かれたのが面白くてつい、口元が綻ぶ。

今度は僕がアリスの頬へと手を重ねた。
靡いた髪の間から見えたそれをそっと指で撫でる。
「ゆ、きの……?」
「私は、だいじょうぶだから」

もう一度、真っ直ぐとアリスの目を見据えてから言った。
体の痛みは取ってあげられないけど、せめて心だけは僕が支えていきたいんだ。
今このときだけは僕の、僕だけのアリス。
そんな気がする。

アリスのかわいらしい顔に、やっぱり可愛いまあるいほっぺた。
それに不似合いな青い痣。
きっと一番辛いのは君、悲しいのは君なんだ。
だけど、アリスは強がりだから僕には素直に頼ってくれない。
きっと自分のことでいっぱいいっぱいなのに、こうやって僕のことを心から心配してくれる。

君の痛みは僕が半分貰ってあげる。
だから…。
「笑って…亜莉子」
驚いた君の表情が、少しづつ笑顔に変わる。
「ふふ…雪乃、びっくりしたよ〜!」
いつもの君の笑顔。心の中がふわっと軽くなった気がした。
アリスの笑顔を見るだけで、僕の体の痛みも消えていってる気がする。
この体の痛みと引き換えに君の笑顔が守れるのなら、これからも…。
一秒でも永く、ナガク…。

そっとアリスの手を引いて歩きだす。
「さぁ、行こうか」
「うん!!」
おんなじ歩幅で、ゆっくりと。
それは僕の崩壊と共に、だけどとても幸せな時間に思えた。


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