小説

□四月最大イベントはクラス替えです
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桜の木の下で透き通っていく鼻歌。

場違いな上音程も何もない変な歌だった。
しかしその音は空にすうっと透明に消えていく。
それはまるで彼女の日常のように彼女の中に響いていった。

違和感など、なにも感じない。










ナガルは、歌を刻みながらそこにいた。











・・・私の心は今、舞っています!!
・・・アレ?なんかおかしいな・・・。




ちがっ・・・踊ってます!!踊り狂ってます!!




ま、舞ってなんかないんだから!!










誰に説明しているのだろうか。
一人でため息をつき、ナガルは歌を刻むことを止めてしまった。






私は今日から最上級生、初日から「あの先輩って頭おかしいらしいよ(笑)」なんて噂はもう勘弁だ。

今年の一年生には私が真面目な生徒であるということを伝えなくては。



しかし、足取りは軽くって、小学生の頃にトラウマ(顔面から転んだ)になったスキップができそうな感じがした。



がんばれ、私と足に力を入れて私は軽く飛び上がる。



お・・・おお?これは、できてるんじゃないのkおぼばぁ!!







転んだのでやめました。









「なにやってんだ・・・?ナガル」









後ろから声が聞こえた。
なんだ見ていたなら声かけろよ気持ち悪いなと転んだ腹いせにこの声にぶつぶつとささやく。

すると、その声は近づいてきてそっと私に手を差し出す。











「怪我してねぇだろうな?ったく・・・お前はいつになったらおとなしくなるんだ。
お母さん心配で心配で・・・」

「うん、お母さんごめんね。昨日とか『ファイアトルネード!!』とか叫びながら窓割ってごめんね」

「否定しねぇ上にお前なにやってんだよ」










私はその手を借りて、重力に逆らうようにまた立ち上がった。
もう一生スキップはしない。
ぱんぱんっと土を払いながらお母さんとの会話を続ける。










「できるような気がしたんだお母さん」

「 否 定 し ろ よ 」

「何事もチャレンジだと思うんだお母さん」

「毎時間アニメの後に○堂が『これが超次元サッカーだ!』って言ってんだろ?
チャレンジしてもできねぇからな?」

「子供の夢を壊すんじゃないよお母さん」

「うん、もうお前も18歳なんだから現実見ろよ・・・?」

「イナズマ○レブンって生放送だと思うんだけどどうだろう」

「冬っぺだけは生放送でほかはアニメだろ」












お母さん・・・いや、幼馴染であるスナオがある児童向けについて語ってくるんだけどどうにかしてくれませんかね。


お前が現実見ろってーのとつぶやきながら歩を進めていく。

あの入学式からなにも変わっていない私たちである。
当たり前だ、変わりようが無い。



喧嘩は毎日しているし、殴り合いだってもはや日常のように繰り返している。









それでも年頃の男女がこうやって人目を気にせず歩けるのは周りも二人を認めているからだ。










「あ、おはよう長谷川くん」

「ヒィッ・・・ななななナガル先輩おはようございますっ!!!さよならっ!!!」

「・・・お前長谷川になにをやったんだ。」

「・・・つ、ツインブースト・・・?」

「なにお前あの超次元サッカーアニメにハマってんの今?」








校門をくぐり、桜に目を向ける。
何も変わらない色、桜日和。





私たちは自分のクラスを確認するべく人ごみをぬってクラス発表掲示板に向かう。

私たちの間には確かな緊張が生まれていた。







これで、一年が決まる。
このクラス替えで全てが決まるんだ。









「さーて・・・。」











発表掲示板まで0距離メートル。
そっと隣にいるナガルを見るとナガルはははっと諦めたように笑い、スナオの肩を叩く。







そして、ナガルが口を開いた。











「恒例行事にうつりますか。」

「あぁ、そうしよう。」










すぅ、と大きく息を吸い込んだスナオはナガルを見つめた。

そして、叫んだ。











「第十二回!!ドキドキ?!わくわく!!クラス替え発表大会ー!!!!」

「イェエエェエイ!!!」









ナガルは軽く飛び上がりスナオとハイタッチを交わす。


そしてお互いを指差して、お互いが不敵に笑って見せた。











「「今年こそはお前と離れてみせる!!」」










その叫びは人ごみに消えて、それを聞いた者は一斉に自分のクラスを探すのをやめて二人を見る。





そして二人の顔をみるやいなやまたかとつぶやいて自分のクラスを探す作業にもう一度うつる。












「・・・長かった。」

「そうだな、スナオ。やっとお前と縁が切れると思うと寂しくもあるしうれしくもある」

「あぁ。」








ナガルとスナオは幼馴染だった。
いや、幼馴染だ。現在進行形、幼馴染道爆走中だ。


なぜかというと、ナガルの母親とスナオの父親が同級生しかも恋仲だったらしく。






まぁそれなりにごちゃごちゃっとなって私たちは親同士のつながりで幼馴染に。
まったくもって迷惑きわまりない。

今はそう思えるが、昔は私には関係ないと思っていた時期があった。

スナオと同じクラスかぁ・・・嬉しいなぁと思えた純粋な時期が。



小学校にあがったばかりのころ。
幼稚園からの幼馴染がいるというのは(しかもかなり顔がいい)自慢できるし、気軽に話せて楽しい。



スナオとなら、ずっと同じクラスでもきっと笑っていられるって思っていた。







そう、思っていたのに。














11年間同じクラスってなんて苛め?











「今年こそは!!今年こそはこの苛めのような呪縛から逃げ切っているはず!!」

「そうさ!!私たちの明日は明るいはず!!!」








無言の承諾、いや、恒例なのでもう言わなくてもわかりきっている私たちはクラス表をお互い端から見ていく。

私はAクラスから、スナオはEクラスからだ。
ちなみにこの学年にはAからFまでのクラスがあるが、Fは特別進学コースいわば真面目・エリート道まっしぐら野郎のクラスなので一秒もそれを見ない。



ずっと二人の名前を探しているとCクラスのクラス表を見ようとしたとき、順と肩がぶつかった。










「「あれ?」」











Cクラスのクラス表を見終えて二人は気の抜けた声を出す。






ないのだ。



どこのクラスにも、名前が。










「いやいやいや・・・・?」

「まさか二人揃ってはないだろ!!」

「ですよねー!お前はとにかく私は絶対ない!!絶対!!」







背中に冷たい汗が伝う。
スナオは明らかに動揺しきっていた。






留年、したんじゃないのか?





なんて考えが頭をよぎる。
ありえない。



だって私内申とったもん!!赤点もとったけど!!欠点なんて当たり前だったけど!!








もう一度繰り返して名前を探す。二人の名前がない。どこにも。









「・・・。」

「ナガルサーン。」

「なに?」

「留年ぽいですy「ありえないいいいい!!!」










とにかく二人、向かい合ってコクリとうなづく。







暗黙の了解、アイコンタクトで考えはまとまった。











「今年も・・・」





「殴りこみですねー。」










無礼講上等!が私たちのジャスティス。
さぁ、向かうは職員室。










そんな僕らをただただ今年も桜がみつめていた。
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