短編(ブック)

□電波的10のお題
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広い宇宙の中で、未知の生命体に出会うことは少なくない。固有種と呼ばれるものは、どの惑星においても存在し、宇宙という無限にも等しい世界の中では星一つが価値ある固有種と言ってもいいだろう。科学者であり、研究者であるクルルはそんな未知との遭遇に価値を見出していた。

己の果てない知識欲を一時とは満たすもの。それは他と一線を画していたクルルにとって何よりも心を満たすものになっていた。


「ククッ!おめでたい奴らだぜェ。」


アンチバリアを展開させながら、クルルは奥東京市にある吉祥学園の上空を浮遊していた。上空から見下ろした学園は、クルルが好む被験体で溢れている、中にはデータで覗いた、ケロロ小隊に深く関わる地球人の姿も見て取れた。実験の犠牲となってもらうには最適な個体だろうが、後々のことを考えると他の者にした方が無難であろう。

クルルはそう考え、一度上空を旋回した。すると、目に入ったのは授業中であるにも関わらず、優雅に昼寝を満喫している一人の地球人。遠目から見てみても、その地球人の容貌が他と異なることに気づく。

地毛ではないだろう。様々な民族が混在する地球であるが、ここ日本という国においての標準な髪色は黒だ。多々例外がケロロ小隊の周りに溢れているが、あれはまだ許容範囲である。あの少年の髪は、そのどれもと違った色を醸し出していた。日の光に照らされて輝く銀色。厳密には灰色というのかもしれないが、不思議な光沢を放つそれは、彼を「不良」と断定する材料になった。


「クーックックック!うってつけなのがいるじゃねェか。授業をさぼったご褒美に、改造地球人第一号の名誉をくれてやるぜェ!」


機嫌良く呟きながら、クルルは少年を捕えるべく学校の屋上へと近づいた。ゆっくりと周囲を回るように距離を縮めていく。アンチバリアを展開させている限りは気づかれないと絶対的な自信があったが、慎重派であるクルルは警戒しながら距離を詰めていったのだ。

徐々に少年の顔が明確な輪郭をもって、クルルの視界に飛び込んでくる。やはり彼は他とは違っていた。クルルたちケロン人にも存在する美意識。その琴線に触れる、少年の造形。ああ、これはいい素材だとクルルは柄にもなく心が躍った。

しかし、その歓喜も少年がクルルの動きに合わせて視線を動かしていることで崩壊する。


(…まさか、アンチバリアを見破った…?いや、そんなはずはねェ!)


焦りながら、クルルは少年の周囲を旋回する。気づいているはずがないと、気づくはずがないのだと自分に言い聞かせて。けれど、少年の視線は確かにクルルを追っていた。


「馬鹿な…!だが、こちらを……ん?」


信じがたいとクルルが声を上げる。クルルが開発に携わったアンチバリアは同族でさえも、将官クラスでなければ見破られぬ程に高度なものだ。それを辺境の地球人に見破られるわけがない。焦りを滲ませたクルルだが、少年の視線がクルルから外れたと同時に知らず安堵の息を零した。

少年の周囲には、一羽の蝶がふわふわと飛んでいたのだ。その動きは先ほどのクルルの動きと酷似している。先ほどの視線はあの蝶を追っていたのだと、クルルは息を吐き出した。


「ふ…これか。俺としたことが、とんだ早とちりだったぜェ!」


そう言って、クルルは異空間から取り出した捕獲用バズーカを構える。そしてそのまま、少年に目がけて発射したのだ。

弾道を一直線に描きながら、銃弾は少年へと向かっていく。だが、その銃弾が少年に命中することはなかった。一瞬の動きで回避されたそれ。再び放った網よりも捕獲成功率が高いガム銃弾も、少年は明らかな意図をもって回避したのだ。

片手に蝶を休ませている様は余裕さえ窺われ、クルルは内心の焦燥を隠すことなく、己の最高傑作とも言える発明品を取り出した。


(奴には見えているというのか…?いや、そんなはずはねェ!!)


取り出した実体化ペンで、巨大な掃除機を描き出す。実体化された掃除機は凄まじい吸引力で少年へと風の攻撃を繰り出した。このまま行けば、少年は為す術もなく吸い込まれて終わる。クルルが勝利を確信したと同時に、これまで目立った動きを起こさなかった少年に変化が現れた。

背を向けていた姿勢を反転させ、クルルへと不敵な視線を送る。そして蝶を逃がすように腕を振り上げたと思えば、吸引力によって吸い上げられたスケボーに乗ったのだ。そのまま風の軌道に乗り、クルルへと一直線に向かってくる。さしものクルルも、このような事態に対処することができなかった。


「ふふ、」
「なっ…!?」


少年は逃げることすらせず、クルルへと到達する。驚いたクルルの表情を青い瞳に移し出した。少年の目に映り込む自分の姿が信じられないとばかりに驚愕している。それに目を奪われた一瞬の隙に、彼は己の武器である実体化ペンをクルルに手から奪い取っていったのだ。


「な、なんだと!?」


実体化ペンを奪われたことで、実体化していた巨大掃除機が消失する。風がなくなったと同時に落下を開始した少年であるが、そのスケボーのテクニックを持って、何事もない着地を成功させていた。

そして、アンチバリアを展開させているはずのクルルに向かって、明るい声を放ったのである。


「へぇ、面白いものもってんじゃん。」
「クッ…貴様、」


挑発するような目つき、声色はクルルの精神を逆なでするのに絶大な効果を有していた。憤怒がクルルを襲う。また、憤怒と共に生まれる好奇心。

自軍の者でさえ、クルルと対等に戦える者は少ない。というのも、純粋な武力はともかく、こと発明品を使った戦略で、クルルの右に出る者はいないからだ。それは使用されている兵器のほとんどがクルルの発明品だということに由来している。最も有効的な使用方法を知り、戦場を経験しているクルルと対等に戦える者は、同じく戦場を知り、自分自身の戦闘力も優秀である将官クラスしかいないのである。

そのクルルから実体化ペンを奪い、アンチバリアを見抜いた、辺境の星の住人。
クルルの好奇心に火を付けるのには十分過ぎた。






(奇想天外な未知との遭遇)














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