短編(ブック)

□夢に終わりを
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サブローはまどろみの中で、懐かしい記憶の中にいた。まだ自己と他人との区別すら曖昧だった子供の頃の記憶。幼いサブローの傍らにはいつも一人の青年がいた。

光に反射して輝く金髪と、夕陽を埋め込んだかのような両の瞳。サブローに向けられる視線はいつも優しく、その青年が大好きだったことを覚えている。

“メデス”と、幼い口調で名前を繰り返し呼んでいた。その度にメデスはサブローを抱き上げ、嬉しそうに笑みを零すものだから、サブローも同じように嬉しくて何度も何度も名前を呼んだ。それが一番優しい記憶。メデスとサブローが二人で過ごした、一番温かで、大切な記憶だった。

メデスが地球の人間ではないことに、サブローは気づいていた。幼い頃から色々なものが視える所為で、他人と自己の区別よりもそちらの違いを認識する方が早かったのだ。けれど、メデスが宇宙人だと知っていてもサブローは彼の傍にいることを止めなかった。

子供の世界を作るべき親が既に他界していたこともあり、サブローは気がつけばメデスと生活を共にしていた。


「メデス、なにつくってるの?」
「ん?あぁ、これはね夢の機械だよ。」
「ゆめ…?」

「そう、夢。これがちゃんとできれば、沢山の人を幸せにできるんだ。」


様々な数式や図面が並ぶ紙を広げて、メデスは充実感に満ちた表情をサブローへと向けた。メデスの表情にサブローは首を傾げたが、幼いサブローはその内容よりも、メデスが嬉しそうな表情をしているという方が重要だった。すぐにメデスと同じように、サブローも嬉しそうな表情を浮かべる。

そして、一枚の図面を手に取った。メデスも何も言わずにサブローの行動を見守っている。普通の子供であれば、大切な資料を壊すなと声を張り上げるところであるが、サブローにそのような心配は無用であった。

サブローがペンを手にしても、メデスは声を上げることもなく優しい眼差しを向けている。ゆっくりとサブローが紙の上にペンを走らせているのを見ているうちに、メデスは目元を和ませた。


「はい!」
「おや、上手に書けたね。僕にくれるのかい?」

「だってこれはメデスの“ゆめ”なんでしょ。ゆめがメデスにふってくるようにしたんだ。」


無邪気な表情でサブローは嬉々としながら紙をメデスへと渡す。そこには、図面の空白の中に拙い文字で“メデスへ”と書かれていた。その意図することを理解し、その紙ごとサブローを強く抱きしめる。

いつだったかサブローに伝えた寝物語。願いを込めた羊皮紙に夢を送りたい人の名前を書いたら、それが空から降ってくるという、ありきたりで、けれど優しい物語。それをサブローは覚えていたのだろう。

この図面がメデスの夢と知って、それにサブローが彼の名前を書くことで、メデスの夢が叶うようにと。


「ありがとう、サブロー。」
「えへへ…。」


メデスに頭を撫でられ、サブローは照れたように微笑んだ。ずっとこんな時間が続けばいい。このまま幸せな時間が続いて欲しいとメデスは願っていた。

しかし、その幸せは突然の来訪者により終わりを迎えることとなってしまう。














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