短編(ブック)

□夢に終わりを
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サブローは大柄の男と共に、無機質な部屋の中にいた。防圧加工された硝子の窓からは、無限に広がる宇宙が見えている。幼い頃に切望した宇宙を目の端に捉えながら、サブローは大柄の男に近づいた。


「案外上手く事が運んでいるようだな。」
「…クルルのこと?でも彼のことだから、その内何か仕出かすと思うんだけどな。」

「それを防ぐのがお前の仕事だろう?」


男の言葉にサブローは疲れたように溜息を吐く。全てを理解した上で要求してくる厄介さは、この男の元に付いてからというもの嫌という程理解してしまっていた。サブローの様子に、男は上機嫌に笑い声を上げる。

男が座っていた椅子から立ち上がり、サブローの横に立った。サブローが見上げなければ顔を見ることができない大柄の体型。サブローがまだ少年の域を抜けきらない地球人であることを差し引いても、余りある身長差は男が宇宙人であることを示唆していた。


「それとも、クルル曹長と共に我らを裏切るか?」
「…裏切る?クルルたちを裏切って、また貴方たちを裏切るって?」
「裏切りはお前の得意分野だからな。」

「…っ、」


男が身をかがめ、サブローの耳元で囁くように言った。その声には侮蔑が色濃く滲み出ており、サブローは耐えるように拳を握る。

裏切り者、と罵られることには慣れていた。けれど、それが心に響いていないかと言われれば否である。クルルは元々の性格故、あまりサブローの裏切り行為には反応を示さなかったが、内心ではどう思っているか分からない。

そして、クルルがこちらに残ると同時に、ケロン軍に返還されたケロロたちの視線を思い出す。ケロロの悲しみ、タママの敵意、ギロロの侮蔑、ドロロの失望に染まった視線を。


「裏切りに裏切りを繰り返したお前を、それでも必要としたのは私だということを忘れるな。」
「……分かってるよ、アクイラ。」


サブローの答えに、アクイラは満足げな笑みを浮かべた。くしゃりとサブローの頭を撫でると、彼はそのまま廊下に繋がるドアへと歩いていく。軽い音を立てて開いたドアを潜り、アクイラは部屋から出ていってしまった。

一人部屋に残されたサブローは大きく息を吐き出す。強く握りしめていた拳を解けば、僅かに血が滲んでいる。掌に滲む赤を見つめ、サブローは思考を振り切るように窓の外に目を向けた。

そこに広がっているのは、深い藍色に染まる宇宙。幼い頃、まだ裏切りも何もかも知らなかった昔に心から焦がれたものだ。地球人であるサブローは、宇宙に出てしまえば内圧変化に耐えきれず一瞬にして死んでしまうというのに、宇宙は自分を惹きつけて止まなかった。


(…ダメだ。まだ、俺は約束を果たしてない。)


このまま、宇宙に飛び込んでしまいそうな自分に言い聞かせる。まだダメだと。まだ、死ぬには早いのだと、サブローは自分に言い聞かせた。

脳裏に浮かんだ、幼い日の約束を小さく呟き、サブローはまた裏切り者の仮面を被った。
















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