短編(ブック)
□夢に終わりを
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「総督、あれは貴方が何かをしたというわけではないでしょうな。」
「私は何もしていないよ、ガルル中尉。あれは…彼の意思に星が答えた結果だ。」
ガルルは帰還したと同時に総督の元を訪れていた。そこにクルルの姿はない。ガルルの詰問にも似た問いかけに、総督は苦笑を零しながら答えた。
「彼の意思…?」
「メデスだよ。彼の想いに星が答えたんだ。」
「それは、」
「理論上はあり得ない。しかし、夢のような奇跡だとしても、生まれた現実は現実だ。」
穏やかに総督は言う。その眼差しはガルルがこれまで見てきたどんなものよりも優しく、慈愛に満ちている。軍のトップに立つ者としては似つかわしくない色。しかし、親としての彼にとっては、最も相応しいと言える感情の色だった。
メデスの意思が奇跡を生んだ。代わりに星の未来は閉ざされてしまったけれど、あれが“彼ら”の答えなのだろう。暗闇の中で生き続ける未来よりも、光ある未来を次代に託す選択をしたのだ。
星は究極の生命体なのだと、ガルルは身を持って教えられた。
「ふふ、これからはまた賑やかになりそうだね。」
穏やかな表情から、どこかクルルと似た意地の悪い笑みに変わった総督に、ガルルはあからさまな溜息を吐く。確実に面白がっていると、理解したくもないのに理解してしまった。これからまた、総督の小間使いをさせられるのだろう。
軍のトップと親しいのも考えものだと、ガルルは再度溜息をついた。
「ところで、肝心のクルルはどこだい?まさか、地球に戻ったわけじゃないだろう。」
「彼でしたら、プルル看護長の元で未だかつてないほど真剣に講義を受けていますよ。」
「おやおや。さっそく面白いことになっているねぇ。」
クスクスと笑う総督に、普段のクルルの姿が重なる。間違いなく、クルルがどう言おうが彼らは似た者親子だった。
そこまで考えて、ガルルは一つの可能性に気づく。だがすぐに頭を振った。クルルは総督としか接していなかったために今の性格が形成されてしまったのであって、あの子にはケロロたちも同じ地球人だった彼らもいるのだから、きっと、多分大丈夫だろう。
自信が持てないのは、クルルの並々ならぬ独占欲を知っているからであるが、細かいことは考えないことにした。あまり細かいことを気にしていては、総督の傍になどいられない。その辺りはプルル看護長がしっかりと、それこそ鬼のような指導をしてくれるだろう。
かつてトロロの食生活を指導していた時のプルルを思い出し、ガルルは心の中でクルルにエールを送った。
一方その頃、ガルルにエールを送られたとも知らないクルルは、プルル看護長の指導の下、自分がやりたい役割をひとまず信用のおけるトロロに預け、自らが“彼”を独占すべく猛勉強中であった。