短編(ブック)
□夢に終わりを
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ケロロたちが到着した格納庫では、幾人かの整備士たちが救命ポットを取り囲んでいる。そのポットに示されているのが敵軍のマークだからだろう。中には殺気立って銃を構える者もいた。
その者たちを制したガルルがポットにゆっくりと近づいていく。すぐ横にはケロロが付き、後ろにはガルル小隊とケロロ小隊の面々が頭を揃えていた。
「開くぞ。皆、念の為戦闘態勢を取っておけ。」
「総員、構えるであります!」
ガルルとケロロの言葉に呼応し、皆が一様に戦闘態勢を整える。ガルルがタッチパネルを操作し、救命ポットの扉がゆっくりと開いていく。中の空気が蒸気となって出てくると同時に、扉の中から見慣れた黄色の体躯が姿を現した。
クルルの姿を認めたケロロたちは戦闘態勢を解き、一斉にクルルへと手を伸ばす。ぐったりした様子のクルルに一瞬焦りが生まれるが、彼はすぐにケロロたちを認識した。
「っ…隊長、か?」
「クルル曹長、大丈夫でありますか?!」
「クルル殿!」
ぼんやりとした様子のクルルであるが、ケロロたちに声をかけられている内に意識を完全に取り戻したのだろう。気遣わしげに伸ばされる腕を振り払って、ケロロたちに向かって叫んだ。
「俺を早くあの宇宙船に戻してくれ!!」
「クルル?お前、何を言って…、」
「あの船にはまだサブローがいんだよ!!アイツ、俺一人だけ逃がしてっ…自分だけ残りやがった…!!」
クルルの言葉に、ケロロたちはもう一人ここにいなければならない人物がいないことに気づく。目を見開いて救命ポットの中を見れば、そこには無機質な壁があるだけだった。
呆然としているケロロに向かって、クルルは血が滲む手を伸ばす。肩を揺さぶりながら、クルルはこれまでにない程に焦りを滲ませた声で叫んだ。
「早く俺をあそこに戻してくれ!サブローだけ残してられるか!!」
ケロロの肩を掴むクルルの手は酷く傷ついていた。まるで何度も壁に打ち付けたかのように皮膚が破れ、表面が赤く腫れている。救命ポットの中で何度もサブローの名を叫びながら、自分の手を打ちつけた結果がそこにあった。
クルルの叫びを聞きながら、ガルルが重い口を開く。
「クルル曹長、君に見てもらいたいものがある。」
「っ…こんな時に…!」
「こんな時だからこそだ。君の証言が得られれば、我々はサブロー君を保護と称して救出することができる。」
ガルルの言葉にケロロたちははっとした。サブローの裏切り行為は本部へも伝わっている。先ほど流用してきたデータで、サブローが本当は裏切ってはいないのだと言う希望は持てたが、確証にするには証拠が足りない。
本部を納得させるには、当事者であるクルルに証明してもらうほかないのだ。でなければ、ガルルたちは宇宙船を動かすことはできない。軍は異星人、さらに言えば裏切り者の為に動くほどお人よしではないのだ。
しかし、そこに協力者という肩書きがあれば話は違ってくる。自軍のために危険を冒してまでデータを送った協力者を見捨てることはしないだろう。だからこそ、ここであのデータを送ったのはサブローであると、クルルに証明してもらう必要があったのだ。
「ちィ…!!」
クルルもその事に気づいたのだろう。データの存在は知らないまでも、サブローの正当性を証明しなければ軍が動かないことは理解する他なかった。耐えるように拳を握ると、ガルルへと歩いていく。そして、殺気を込めた目でガルルを睨みつけた。
「早くそこに連れて行きなァ。…じゃねぇと、何するか分からねェぜ…。」
「分かっている。…私としても、早く彼の元へ駆けつけたいのでね。」
ガルルの言葉にクルルは苛立たしげに舌打ちをする。ガルルとクルルの後を追うようにして、ケロロたちもまた二人と共に先ほどデータが送られてきた一室へと向かっていった。