短編(ブック)

□夢に終わりを
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サブローが目を覚ました時、クルルは椅子に座りパソコン画面を見つめていた。聞き慣れたタイピングの音が聞こえないことに首を傾げ、サブローは気だるさが残る動作でゆっくりと上体を起こす。

動いた気配が伝わったのだろう。クルルは椅子を動かし、サブローの方へと身体を向けた。


「随分ぐっすりだったなァ。結構時間経ってるぜェ。」
「…どのくらい寝てた?」
「7〜8時間ってとこだな。あと少しでコイツも完成するから、もう少し待ってなァ。」


クルルの言葉に無言の了承を示すと、サブローはぼんやりと周囲を見渡した。そこに広がるのは間違いなく、与えられたサブローの自室。けれど、懐かしい夢を見た所為でこの部屋が酷く懐かしいものに思えて仕方なかった。

ちらりとクルルに視線を向ける。本来であれば、そこに座っているのはメデスのはずだった。けれど、メデスはアクイラに事故に見せかけて殺されてしまった。その真相をサブローは知っている。

アクイラも当然気づいているだろう。聡いサブローがアクイラに未だに従っているのは、メデスと同じようにサブローも使い切るまで使って、切り捨てるためだ。無論、アクイラの思惑通りに踊らされるつもりはないが、メデスの最期の言葉を思い出し、サブローは耐えるように目を閉じた。


(サブロー。もし僕が志半ばで倒れることがあったら…、)


大丈夫だとサブローは自分に言い聞かせる。きっとメデスの望みを叶えて見せる。夢を叶えられず、夢を捻じ曲げられてしまったメデスの為に、サブローがそれを終わらせなくてはならないのだ。


(大丈夫、だってクルルが完璧に作ってくれる。)


クルルに何も言わずに利用してしまっていることに心苦しさを覚えたのは何度目になるだろう。罪悪感を覚えたのは何度目になるだろう。けれど、サブローにはクルルに頼るしか道がなかった。クルルがメデスの設計図を完璧に理解し、それを一部の間違いもなく完成させてくれれば、サブローの目的も滞りなく遂行することができる。

けっしてアクイラに気づかれてはならない。様々な宇宙人の技術者を騙し、ようやく辿り着いた人物。それがクルルだった。彼ならば、全てを任せられる。

裏切りに裏切りを繰り返したサブローが最後に見つけた、ケロン人のクルル。これまで騙してきた者たちと違い、クルルはサブローの心の奥にまで入り込んだのは誤算だったが、それは耐えれば済むことだ。

たとえ、クルルを裏切ることに身を焼かれるような苦痛を覚えても、彼に悟られてはいけない。


「完成したぜェ。あとはこれを起動させりゃ、正しく機能するはずだ。」
「…ありがとう。お疲れ様、クルル。」


クルルからディスクを受け取り、サブローは柔らかな笑みを浮かべる。そして、そのディスクを懐に入れると、クルルの身体に手を伸ばした。



(さぁ、夢を終わらせよう。)











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