短編(ブック)

□夢に終わりを
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クルルは自分に与えられた部屋の中で、所有物であるパソコンのキーボードを叩いていた。その画面に映し出されているのは、己を拘束しているケロン軍反抗勢力の組織図だ。淀みなく動いている指に迷いはない。

ハッキングしているとばれれば、その時点で首を刎ねられるだろう。いかにサブローがクルルを庇い立てしたところで、それは確実に現実のものとなってクルルの身に降りかかる。


(…サブローが俺を庇う…?この期に及んで、何を考えてんだ…俺は。)


クルルは自然に頭に浮かんだ考えに舌打ちをする。サブローがクルルを、ケロロたちを裏切ったのは紛れもない真実だ。現に、クルルは表向き仲間として迎えられたが、扱いは捕虜の時と変わりはない。自分のいる部屋が牢屋からサブローの部屋へと変わったことくらいだ。

同室であるはずのサブローは、滅多に部屋に訪れることはなかった。どこで休んでいるのか気になるものの、この宇宙船はサブローの領分だ。仮眠室なり、どこでなりと休むことはできるのだろう。

与えられた自室がありながら、そこに戻らないのはクルルがいるからに違いない。それが顔を合わせることへの気まずさなのか、それとも単に自室に戻る時間がないのかは定かではない。けれど、それもクルルにとってどうでもいいことだった。


(…俺を仲間に引き込んだと見せかけて、また何かをしでかすつもりなのか…?だが、隊長たちも黙っちゃいねぇだろうな。)


画面に映し出された、敵軍の組織図。ラボのような設備がない敵地ではハッキングの精度は落ちるが、クルルの腕をもってすればデータを覗くことは呼吸するくらい簡単なことだった。

ハッキングしたデータをディスクではなく、自分自身の脳細胞に叩き込む。証拠を残さないようにするには、自分の記憶を信用するのが一番いい。忘れてしまうという危惧はクルルの中に存在しない。

仮に記憶を消されても、すぐに思い出せるようにヘッドフォンの中に細工をした。耳介から鼓膜を突き抜け、聴神経へとミクロ単位の線を伸ばす。そこから脳幹、間脳、大脳へと線を繋ぎ、記憶中枢である海馬とその周辺へとデータを叩きこみ、必要時引き出せるようにした。


「…あとは、戻るだけなんだがなァ…。」


口に出した言葉に、クルルは小さく溜息吐いた。これでケロン軍に戻ることができれば、敵の組織図から布陣を予測し、反撃することができる。しかし、クルルには戻る術がなかったのだ。

この部屋は基本的にサブローしか出入りすることができないのである。つまり、ここから脱出するにはサブローを倒す必要があるのだ。


「はァ…。」


また一つ溜息を吐く。他の監視員であれば、さっさと眠らせるなり操るなりして脱出できるのだが、相手がサブローだという事実がクルルのやる気を削いでいた。サブローは裏切り者だと言い聞かせてみるも、どうにも完全に割り切れないでいる。

中途半端な自分が腹立たしいはずなのに、どこかでそれを受け入れてしまっている自分も存在していたのだ。


(いっそのこと、突き放してくれりゃあいいのに…。なんで、お前さんはいつも俺に甘いんだよ。)


これまで見てきたサブローの笑顔を思い浮かべながら、クルルは耐えるように目を閉じた。















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