短編(ブック)
□空の激浪
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暴れまわるドラゴンによって破壊されたビルの破片が周囲の民家を壊していく。日向家も例外ではなく、割られてしまった窓から細かい硝子が振り落ちていた。硝子を頭から被らないように、冬樹と夏美はケロロに連れられ、地下の小隊基地へと避難する。
小隊基地ではモアが懸命に外で戦うギロロやドロロたちを補佐していた。
「モア殿!大丈夫でありますか?!」
「おじさま!ここは大丈夫ですけど、外の皆さんがっ…。」
焦ったようにモアがモニターに目を向ければ、そこにはドラゴンに苦戦している小隊メンバーの姿がある。戦闘に長けているギロロやドロロですら苦戦している様子から見ると、持久戦には些か不向きであるタママにはキツイのだろう。
連発したタママインパクトの影響からか、その息は激しすぎるほどに上がってしまっていた。
「タママ二等!聞こえるでありますか?!」
『軍曹さん?!どうしたんですか!』
「タママ二等は至急基地まで撤退!ギロロ伍長とドロロ兵長はできるだけドラゴンを市外に移動させるであります!」
『っ…わかったです…!』
『やむを得んな…。了解した!』
『承知!』
タママがケロロの指示に従い、戦線から離脱する。その後、タイミングを見計らい、ギロロとドロロが一斉にドラゴンに攻撃を仕掛けた。
二人が放った攻撃はドラゴンの鱗を掠め、市街の破壊に向けられていたドラゴンの意識が二人に向けられる。轟くような咆哮が聞こえた瞬間、ドラゴンはギロロとドロロに向かって攻撃を仕掛けてきた。
「くそっ…!」
「ギロロ殿!!」
ドゴ!!とギロロのフライングソーサーにドラゴンの尾が激突する。その衝撃でギロロは操縦桿から手を離してしまった。ケロン体の小さな身体が吹き飛ばされる。
そして、ギロロの身体は日向家の外壁に叩きつけられた。
「ギロロ!!」
モニターでギロロたちの様子を見ていた夏美が思わず声を上げる。ケロロもまた戦闘に長ける幼馴染がこれほどに苦戦していることに焦りと不安を隠せずにいた。
「ギロロ、大丈夫?!」
『…ぐ、』
夏美がケロロの手に握られていた通信機を使い、必死にギロロに呼びかけるが、ギロロは呻き声を上げるだけで返事をしてはくれない。
理性ではここにいた方がいいのだと分かっているが、夏美はこれ以上我慢することができなかった。姉ちゃん!と叫ぶ冬樹の声が聞こえたが、夏美はギロロが倒れているだろう庭へと向かって走り出したのだ。
「夏美殿!」
ケロロもまた焦ったように夏美の名を呼ぶが、夏美は既に部屋を飛び出して行ってしまった。黙って機器を使い、ギロロたちをサポートしていたクルルが思わず舌打ちをする。
ただでさえ不測の事態だというのに、これ以上混乱する要因を作らないで欲しかった。けれど、夏美の行動に納得する自分もいる。夏美は普段の形はどうであれ、ギロロのパートナーだ。
パートナーがあのような窮地に晒されれば、取り乱すのも理解できないではない。
モニターに倒れたギロロと、それを抱き上げる夏美が映った瞬間、クルルの心に湧き上がった得体のしれない衝動は本人すら気づくことなく、苛立ちと共に捨てられた。