短編(ブック)

□短編2
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クルルが砂漠地帯に到着した刹那、一際大きな光が発生した。それは真っ直ぐに戦いを終えたサブローに向かっていく。マシンの操縦桿を最大まで引き上げ、クルルはサブローの元へと走る。

しかし、クルルの手がサブローへ届く寸前、眩い光が彼らを包み込んだ。




「うっ…、」


衝撃の余波で大破したマシンから擦り傷だらけになりながら這い出したクルルは、目の前に広がっていた光景に言葉を失う。

そこにはただ静寂だけが広がっていた。無音空間は既にないはずなのに、そこには音という音がなくなっていたのだ。呆然としながらクルルは辺りを見渡す。あるはずの色を、そこに存在していなければならない色を探して、クルルは周囲を見渡した。

だが、そこに広がるのは砂と廃墟、マシンの残骸だけだ。クルルが最も望んでいる色を見つけることはできなかった。


「…っ!!!」


色が見つけられない要因など、分かり切っていた。クルルは自分の手を見つめて、固く拳を握る。握った拳が、肩が、全身が震えているのは決して気の所為などではない。頬に伝う熱は、幻などではない。

サブローが、消えたのは確かに現実だった。


「畜生っ…!畜生ォ!!!」


握った拳を力まかせに地面に叩き付ける。拳を叩き付けるたびに砂が舞い、クルルを砂塵が取り囲んだ。ぽたぽたと砂の色を変えていく涙は、止めどなくクルルの頬を伝い落ちていく。

サブローの命と引き換えに守られた世界で、クルルはただ一人涙を流した。こんな結末を誰が望んでいたというのだ。サブローのいなくなった世界で、どうやって生きていけというのだろう。

独りだったクルルが、サブローと出会い、友情を、愛情を知り、独りではないのだと、ようやく思うことができたのに。

サブローのいない世界は、クルルにとって孤独の世界と同意義だ。


(クルル。)


頭の中に、柔らかいサブローの声が響く。既に記憶でしか聞くことのできない声は、どこまでも優しかった。まるで慰めるような声色に、クルルの目頭がまた一段と熱くなる。

サブローとクルルは対等であるはずだった。しかし、今はどうだろう。クルルはサブローによって守られ、サブローはその代償として消えてしまった。

これのどこが対等だというのだ。対等であるならば、せめてサブローと共に消えさせて欲しかった。そうすれば、この世ではない世界で、笑って彼に悪態をつくことができたのに。

サブローの危機に気づき遅れた自分には、その権利すらないというのか。クルルはどさりと砂の上に身を投げ出した。クルルの周囲を砂塵が取り囲む。漂う砂塵が砂地へ帰った頃、クルルはぼんやりと空を見上げた。


「…なァ、サブロー。お前さんは怒るかもしれないけどな、俺もそっちに行っていいか?」


答えなどあるはずもないのに、クルルは空に向かって問いかける。声がなくとも、サブローが出すだろう返答は予想がついた。


(何バカなこと言ってるんだよ!そんなのダメに決まってるだろ?!)


「だよなァ…。」


クク、と渇いた笑いを零す。後追いなどしようものなら、サブローはきっと目に涙を浮かべながらクルルを罵るに違いない。けれど、そんな声すら聞きたいと思ってしまう。

サブローが守った世界で、サブローのいない世界で、どうやって生きていけばいいのか、クルルには分からなかった。天才と持て囃された自分をここまで悩ませる問題など、後にも先にもこれだけなのだろう。

クルルはサブローと最期に会った空の下で、これからのツマラナイ日常を呪うしかできなかった。






(君さえいれば、それだけで良かったのに)














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