短編(ブック)

□短編2
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サブローは羽根の絵を好んでいる。それは彼の描く絵や、服に施されている装飾にも反映され、一種のトレードマークのようになっていた。何故、羽根を好むのか、常々聞いてみたいと思っていたクルルは、学校の屋上で見上げたサブローの横顔に息を呑んだ。

赤い夕陽に照らされて、サブローの銀色の髪が輝いている。夕陽とは正反対の色を持つ青い瞳は、赤い光によって不思議な色合いを醸し出していた。高貴な紫苑のようでいて、揺れる海にも見えるその瞳。

サブローの瞳が持つ美しさを誰よりも理解していたクルルであったが、初めて見たその色に言葉を忘れて魅入ってしまった。


「クルル?」
「…何でもねェよ。」


クルルが自分を見つめていることに気づいたサブローが不思議そうに声をかけるが、クルルはふ、と顔を逸らした。サブローは首を傾げるものの、言及することはせずに、また夕陽を見つめている。

ちらり、とクルルがサブローの横顔を窺うように見ると、そこには夕陽よりもどこか遠くを見つめているサブローの姿があった。


(綺麗だな…、)


クルルは何の疑問も持たずに、心の中で言葉を零した。綺麗、という単語はクルルにとってあまり好ましい表現ではない。表面的な美しさは、内面の醜さを隠すための手段だ。

軍での駆け引きでは、表面だけを飾り立て、心ではその裏に隠された真実を互いに探りあっている。そんな場面ばかり見てきたクルルが、上辺だけの美しさに疑念を抱いてしまうのは仕方のないことだった。

しかし、クルルはサブローを美しいと思ったのだ。それはサブローの持つ内面を理解し、彼の心の奥底までも知っていたからだろう。表と裏が重なりあった美しさは、こんなにも心を惹き付けるのだと理解した。


「…夕陽、綺麗だね。クルル。」
「あァ、そうだなァ。」


落ち着いた声でサブローに言葉を返す。サブローは穏やかな笑みを浮かべて、もうすぐ沈む太陽を見つめていた。

徐々に暗くなっていく空と同様に、夕陽に照らされていたサブローの髪も空の色を反映させていく。燃えるような紅から落ち着いた銀色へ。その変化がまるで羽化のようだとクルルは思った。


(天使ってかァ?…まぁ、こいつにはお似合いなのかもな。)


サブローを見つめながら、クルルは一人心の中で呟いた。そっとサブローの髪の毛に手を伸ばせば、ひんやりとした温度が触れる。サブローがクルルに目を移せば、彼はただクルルを肩へと抱き上げた。

サブローの肩に乗り、その柔らかい髪の毛に触れながら、クルルは銀色に輝き始めたソレにそっと唇を落としたのだ。





(お前の羽根に埋もれる愚者でありたい、そんな馬鹿げた想いを抱いてしまった)















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