短編(ブック)

□パラレルもの
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サブローにとって自分の性別は最も忌むべきものだった。女というだけで受けた仕打ちは、きっと死ぬまで忘れられないことだろう。従姉であるハニーはサブローが早く忘れてくれることを願っているが、それは恐らく一生叶うことはない。

男として生活していても、男性との接触に拒絶反応が出てしまうことがあるのだ。虐待を受けていたのは何年も前のことなのに、その記憶は成長した今でもサブローを苦しめていた。


「睦実、大丈夫?」
「ハニー姉さん…。うん、俺は大丈夫だよ。」
「嘘はいけませんネ。オネエサンを騙せると思ったら大間違いデス。」


ピン、とハニーの長い指が音を立てながらサブローの額を叩いた。小気味いい音が響き、サブローは少しだけ目を丸くする。しかし、すぐに苦笑を零した。


「やっぱりハニー姉さんは騙せないや。」
「…睦実、やっぱりこっちに来る気はナイ?」


苦笑を零すサブローにハニーは真剣な表情で問いかける。以前サブローを海外へ引き抜こうとしたプロデューサーは、まだDJとしての623を諦めたわけではない。そこにハニーという後押しがあれば、いつでもサブローを海外へ連れて行くことは可能だった。
しかし、当のサブローがそれを拒んでいる。海外であれば、サブローが本来の性で過ごすために必要なリハビリも“睦実”としての存在も堂々と公言することができるのに。

日本でサブローが本来の性で過ごすには、あまりにも危険過ぎるのだ。彼女の精神状態はもちろんのこと“あの男”がいつサブローに接触してくるか分からない。


「こっちに来さえすれば、私たちはずっとアナタの傍にいられる。マミィも協力してくれる。…ねぇ、こっちに来て一緒に暮らしまショウ?」


ハニーの誘いに、サブローは困ったような表情を浮かべた。それはハニーの誘いに乗ろうか迷っている表情ではない。どうやって断ろうかと悩んでいる顔だった。それに気づかぬハニーではない。

彼女はサブローの顔に手を添えると、慈しむように頬を撫でた。


「トモダチが大切?」
「…、」
「いいのよ、無理しなくて。…元気になってもらいたいのに、こっちに来た所為で元気がなくなっちゃったら、元も子もないからネ。」

「ハニー姉さん…。」


ハニーと同じ青い瞳を揺らすサブローに、ハニーはそっと親愛のキスを落とした。小さな頃から変わらない親愛の証。ずっと昔、ハニーのお下がりを着ては笑っていた“睦実”が酷く恋しい。

けれど、今のサブローもハニーにとって大切な従妹だった。男として暮らしているとは言え、その可愛らしさは昔から変わらない。もう性別を騙すのにも限界が来始まっている。

最悪の形で性別がばれる前に自分の傍に来て欲しかったのだが、無理強いだけはしたくなかった。


「何かあったら真っ先に言うのヨ?お姉さんがすっ飛んできますからネ!」
「ありがとう、ハニー姉さん…。」


目じりをほんのりと赤く染めるサブローに、ハニーは自分の拠点を日本に移そうかと本気で考えを巡らせ始めた。
















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