短編(ブック)

□ケロロRPG
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大名との対話を終え、ケロロたちは城下町に降りて来ていた。参貴の事件が解決したのなら、長居をするわけにもいかないのである。ミミクリたちが龍脈の岩屋へ来ていたとすれば、魔王の封印と関係しているに違いない。

名残惜しい気持ちはあれど、参貴とはここでお別れなのだ。

参貴と睦がケロロたちを見送る為に城下まで付いてきてくれていた。参貴は男装姿ではなく、しっかりとした着物姿である。すれ違う人々がいつもとは様子が違う参貴に目を奪われているが、これが次期当主だと公表された時にはどうなるか。

クルルはその場面に立ち会えないことを少し残念に思った。


「参貴殿、ここでお別れでありますな。」


ケロロが名残惜しそうに参貴を見上げる。参貴もまた少しだけ寂しそうにケロロたちを見ていた。参貴の真正面に立つクルルは、何やら見つめ合う二人が気に入らないのか、ぎゅむっとケロロの足を踏む。
ケロロは声を上げて後ろに下がってしまった。その様子に参貴はクスクスと笑い声を上げる。そんな参貴にドロロは遠慮がちに問いかけた。


「参貴殿は、まだしばらく町人暮らしを続けるでござるか?」


ドロロの問いかけに、参貴はにこりとした笑みを浮かべ、ドロロの質問を否定した。


「いや、明日にでも跡を継ぐことにしたよ。こんな状況だし、早く近隣の村も立て直さなきゃいけないしね。…それに、父上の命も長くないんだ。私が早く立派になって安心させてあげないとね。」


参貴の言葉に隣に控えていた睦が目を見開く。大名の命が長くないことを参貴から聞いていないのだろう。どことなく暗い雰囲気が漂う中、それを打ち破るようにクルルの声が響く。


「オヤジさんが長生きできねぇだって?おいおい、縁起でもねぇこというなよ。」
「え、」


クルルの言葉に参貴が短く声を上げる。その声に含まれているのは戸惑いだ。睦もまた、参貴の言葉を信じていたため、大きく目を見開いてクルルを見ている。
参貴が戸惑いがちにクルルに問いかければ、暗い未来を覚悟していた彼女に光が差し込んだ。


「いや、でも…クルル。キミが父上は病気と…、」

「病気?俺はそんなこといってねぇぜ。オヤジさんはいつまで生きられるかわかんねぇっていったんだ。人がいつまで生きられるかなんてそんなもん誰にもわかんねぇだろ。安心しな、あのオヤジさんのこった。きっとひ孫の結婚式までピンピンだ。」


クルルは参貴に言い聞かせるように、言葉を紡いでいった。参貴はクルルの言葉に、だんだんと視界が涙で滲んでくる。隣に控えていた睦もまた、ほっと安堵の息を吐き出した。
そして、参貴はクルルを見つめ、震える声で言う。


「…フ、フフフ!アハハハ!そんなのまるでイカサマじゃないか。してやられたよ!」


目じりに浮かんだ涙を拭い、クルルに向かって嘆息する。クルルは機嫌よさげに、独特の笑い声を上げた。


「クックックー、参貴。丁半勝負の借りは返したぜェ。これでとっとと跡を継ぐなり、旦那貰うなりしちまいな。」
「えっ?!ちょっと、クルル!」


クルルの発言に参貴が顔を赤くして、声を荒げる。また、隣に控えていた睦もクルルの発言にビクリと肩を震わせた。思わず睦が参貴を振り向けば、参貴はクルルに向かって抗議するばかりである。

その様子に、睦は妹のような存在である参貴が大人になって嬉しいのか寂しいのか、良く分からない気持ちになってしまった。


「もう、クルルったら…。」
「クク、まぁせいぜい頑張れよ。」


赤くなった頬を擦る参貴に、クルルは優しく声をかける。参貴は呼吸を落ち着かせると、ケロロたちへ向き直り、とびきりの笑顔を向けた。


「みんな、ありがとう。みんなの旅の無事を祈ってるよ。これはお守り代わり、受け取ってよ。」


参貴はそう言って、不思議な魔力を纏ったサイコロをクルルに手渡す。クルルはそのサイコロを大事そうに持つと、参貴へ向かって、小さく言葉を囁いた。その言葉に参貴は一瞬虚を突かれたような顔をするも、すぐに嬉しそうに目を細めた。

参貴はクルルから離れると、今度は袖から一つの小瓶を取り出してタママへとそれを差し出す。


「参貴さん?」
「これはね、手向けの花の蜜だよ。これは城で育てたものだから、ちゃんと食べられる。」

「わぁ、ありがとうですぅ!」


タママが参貴から手渡されたのは、琥珀色に輝く蜜だった。湿地では本来の色を見ることはできなかったが、小瓶の中の蜜は黄金にも勝るほどの輝きを放っている。タママは小瓶を大切そうに持つと、参貴に向かって満面の笑顔を向けた。

タママに小瓶を渡した参貴はケロロたちに向き直り、次期当主としての表情で告げた。


「私はここを今よりもずっといい町にしてみせる。だから、いつでも町の様子を身に来てよ。…じゃあ、私はこれで。」


参貴はそういうと、ケロロたちへと背を向け、城の方へと歩いて行った。それを見送りながら、タママは明るい声で言う。


「参貴さんなら、きっといい当主になれるですぅ!」
「ああ…そうだな。」


タママの言葉にギロロが同意を示す。タママは参貴から貰った小瓶を持ちながら、参貴が歩いて行った方を見守っていた。


「さぁ、お涙ちょうだいはこの辺で、次へ行こうぜェ。」


クルルがメンバーを代表して、先を促す。クルルが持つレーダーは海の真ん中を示している。そのことにケロロは声を上げるものの、表情はやる気で満ち溢れていた。
そして、ケロロは声高らかに号令を上げたのである。


「じゃあ次の伝説の装備を求めて、大海原へ、ケロロ小隊しゅっぱーつ!」










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