短編(ブック)

□ケロロRPG
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参貴に道案内をされる途中で、すれ違う人々に声をかけられる。皆、参貴に向かって話しかけていた。参貴が町人にどれほど好かれているかが分かる。特に小さな子供は参貴が微笑むと、嬉しそうに笑顔を返した。


「参貴殿は人気者でありますなぁ。」


何度も繰り広げられた光景に、思わずケロロが声を上げる。それに参貴は苦笑を零した。まるで、自分には分不相応だとでもいうような表情。しかし、その表情の意味をケロロたちは捉えることができなかった。

唯一人、クルルだけがその表情の意味することを読み取っていたのだ。


(…こりゃ、問題の根は深そうだな。)


ケロロたちは参貴が、この町の後継である参之丞だということを忘れているのだろう。いや、ドロロは忘れていないと思うが、恐らく声をかけられないのだ。そうさせる雰囲気を参貴が纏っていれば、仕方のないことかもしれない。

そうこうしているうちに、城下町の片隅にある長屋に辿り着いた。少し建付けの悪い戸を開けると、紙と墨の匂いが鼻をついた。


「さぁ、入って。」


参貴に促され、畳の上へ腰を下ろす。そして参貴もまた姿勢を正した。何となく重苦しい空気が場を支配する。参貴がケロロたちへ目を向けると、表面上は穏やかな笑みを浮かべて言葉を紡いだ。


「でさ、俺のこと…誰に頼まれたの?やっぱり、オヤジかい?」


参貴の瞳には巧妙に隠されてはいるが、確かな敵意が存在していた。しかし、ケロロたちには何のことか理解できない。ケロロたちは誰かに頼まれて参貴に会いに来たわけではないのだ。


「ゲロぉ?何の話でありますかな?」
「アハハ、とぼけないで欲しいな。…イカサマさいころ遊びが趣味の気ままな絵師は仮の姿、その俺の正体を知ってて近づいてきたんでしょ?」


ケロロが疑問の声を上げると、参貴は取り繕っていた笑顔さえも外して、厳しい目でケロロを見つめる。澄んだ青い瞳は細められ、感情は敵意に満ちている。クルル程ではないにしろ、ケロロはサブローと親しい間柄であるため、このような視線を向けられて少し怯え気味になってしまう。

ケロロが及び腰になっていると、クルルが独特の笑い声を上げながら独り言のように呟いた。


「クックック…、やっぱりあの勝負、イカサマだったか。でも…この俺様にも見破れねぇイカサマを使うなんてやりやがるぜ。クックックー。」


クルルの笑い声が長屋の中で響き渡る。それに参貴が眉を寄せていると、ドロロが彼女に向かって言葉を放った。


「いや、拙者たちには参貴殿が何の話をされているのか、さっぱり…。」


ドロロの言葉は半分が真実で、半分は嘘だ。参貴の正体が参之丞であることは既に感づいている。しかし、それは誰かに頼まれたから得た情報ではない。これはドロロたちが自分の足で歩いて得た情報で考えた仮定だ。

だからこそ、参貴の言葉には頷けなかった。


「だから、とぼけないでってば。どうせ、オヤジの息がかかった…、」
「いいえ、その者たちは関係ありません。若、我らを甘く見ないでくだされ。」


ドロロに詰め寄る参貴の声を遮って、低い男の声が響いた。その声にケロロたちが振り向けば、そこには二人組の武士が立っていた。三十代半ばだろうか、長屋の入り口に立った彼らは参貴の姿を認めると、一瞬だけ何かに耐えるような表情をした。


「若の所在は我らが突き止めたのです。…心中お察ししますが、どうか城へお戻りください。」


その言葉と同時に、長屋の入り口で待機していた武士が数人中へ押し入ってくる。どの人物も参貴よりも随分たくましく、背の高い男たちだった。逆らえない状況に参貴は悔しそうに眉を寄せた後、深い溜息を吐く。


「…やれやれ、わかったよ。」


参貴はケロロたちの前に出て、そのまま町人たちから姿を隠すように笠を着させられる。足元以外見えなくなった参貴は、男たちに連れられて長屋を出ていった。そして、ケロロたちもまた、男たちへ案内されながら参貴の後を追う。

クルルは別れ際の、全てを諦めたかのような参貴の表情を思い出し、面白くなさそうに舌打ちをした。











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