短編(ブック)
□短編
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気に食わない存在というのは、種族に関係なく恋敵と呼ばれる者なのだと実感した。ギロロは愛用の銃を手入れしながら、いつもすました顔をしている男を思い浮かべて、険しい表情をさらに険しくする。テントの中でくつろいでいた猫は、その表情に「また始まったか」と呆れにも似た表情を浮かべたものの、欠伸一つで見なかった振りをした。
ギロロは銃を磨きながら、今度もまた始まったサブローと夏美の恋愛事情に頭を悩ませている。現時点では夏美の方がサブローに好意を持っているようであるが、これからどうなるか分からない。
その不安に駆られる度に、夏美がサブローへのアタックを仕掛けているのだから、ギロロとしては心休まることがなかった。
「何故だ、何故夏美はサブローとぉぉおお…!!」
プスプスとギロロの赤い顔が、さらに赤くなり、頭から蒸気が噴出している。大分興奮しているらしい。猫は巻き込まれてはかなわないと、やや嫉妬混じりの表情を浮かべながらもテントから出て行った。
ガチャガチャと煩くなり始めたテントを尻目に、猫は日向家の庭で大きく欠伸をする。今日は天気も良く、風も丁度良い。つまりは絶好の昼寝日和だ。このまま縁側で寝てもいいか、と優雅に足を動かすと、猫は前方に家族ではない人物が歩いてくることに気づいた。
「やぁ、猫ちゃん。ギロロはこの中かな?」
にこやかに問いかけてくるのは、ギロロが現在恋敵として敵対心を露わにしているサブローであった。猫は穏やかな笑顔を向けられて、一瞬目を丸くする。こんなにも柔らかく微笑む人はそうそういるものではない。
日向家の長男である冬樹も柔和な笑顔を浮かべるが、それともまた違った笑顔だった。
「にゃあ。」
サブローの問いかけに肯定の意味も込めて、鳴き声を上げる。その声にサブローは肯定と受け取ったのか、猫の頭をひと撫でして、ありがとうと囁いた。
その囁きが酷く優しげであったのと、撫でられた頭が心地よかったため、猫が甘えるように擦り寄るとサブローは苦笑して、猫を抱きあげてくれた。そして軽く鼻と鼻を合わせて、また優しい笑顔を浮かべる。
「可愛いね、君は。また今度来た時に遊んでくれる?」
「にゃあ!」
もちろんだ、と一際大きな鳴き声を上げれば、サブローは嬉しそうに口角を引き上げた。その笑顔を見るだけで、何故か満たされた気持ちになる。余韻に浸りつつ、降ろされた縁側で猫は気持ち良さそうに眠りについた。
ふいに聞こえてきたギロロの戸惑った声とサブローの楽しそうな声に、これからまたひと悶着あるのだろうと思ったが、それすらも子守唄にしかならなかった。
(ひと悶着の中、サブローに抱きかかえられて嬉しかったのは猫だけの秘密)