短編(ブック)
□短編
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最初はただ、姉の先輩だという認識しか持っていなかった。しかし、クルルとの出会いを通して、同級生の友人たちよりも深い交流を持つこととなった。
「あ、サブローさん。」
「やぁ冬樹君。今帰りかい?」
下駄箱の前で偶然サブローと出会った。サブローは相変わらず柔らかい笑みを称えている。その笑顔にどきりとする女子は如何ほどだろうか。姉もその一人であると知っているだけに、何とも不思議な気分になる。
冬樹の様子にサブローは不思議そうに首を傾げた。いつも身につけている帽子は今日も変わらず彼の頭に存在している。刺繍されたマークは、相棒であるクルルのマーク。それに気付いた冬樹は不思議そうにしているサブローに向かって、ついつい質問してしまう。
「サブローさんて、いつもその帽子被ってますよね?」
「ああ、これ?うん、あると落ち着くんだよねー。」
朗らかに笑いながら言うサブローの表情は、後輩と話しているだけではない楽しさが滲み出ている。もしや帽子が話題に挙がったことが嬉しかったのだろうか。そんな疑問に駆られて冬樹は口を開いていた。
「…そのマーク、自分で入れたんですか?」
そのまま下駄箱で話しているのも何だったので、帰り道を歩きながらサブローに話しかける。マークの話題に、サブローは自分自身で気づいていないだろうが、やけに瞳が輝いて見えた。その青い瞳がとても綺麗だと思うのは、きっと純粋な気持ちだったのだろう。
冬樹の質問に、サブローは嬉しそうな表情で口を開いた。
「そうだよ。この帽子作ったら、クルルがやけにつっかかってさー。」
「へぇ…。」
つっかかる、というのは恐らく照れ隠しだ。クルルは実直な好意に弱いところがあるため、普段は憎まれ口を叩いていても、照れくさかったに違いない。その様子を想像して、思わず頬を緩ませれば、楽しげな表情をしたサブローと目が合った。
じっと見つめてくる瞳は、澄んだ青。日本人には珍しい色だが、サブローには酷く合っている色に思えた。
「冬樹君もケロロと仲良いよね。」
「はい!軍曹は友達ですから。」
冬樹はサブローの言葉に、心底嬉しそうに返事をする。その姿にサブローは満足げに微笑んだ。その微笑みに冬樹は目を奪われてしまう。まるで慈しむように細められた目。それは自分と二つ離れているだけの先輩が持つには、些か不相応な気がした。
「お互い、これからも仲良くしようね。」
お互い、という言葉がケロロとクルルのことを指したのか、冬樹とサブローのことを指したのか、冬樹には分からなかった。
(向けられた笑顔は、ただ温かく)