クライング
□シリウス
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「……シオ」
小さく掠れた低めの声がすぐそばで聞こえた。いつもの彼の声は男性にしては高めなのに。聞き慣れないその声に、一瞬身体が震える。
微か過ぎるあたしの反応に気づかなかったらしい彼は、おそらく何も考えていないのだろう。一晩中あたしのお腹の前の辺りで組んでいた彼自身の手をきゅっと自分の方に引き寄せるように力を入れた。
その彼の行動のせいで、あたしと彼との間にかろうじてあった距離はゼロになる。
あたしはどうしたら良いのか分からずに、彼の腕のせいで自由に動けない身体をさらに固くした。
すぐにまた彼は何も言わなくなって、一定に深く息をする音だけが聞こえてくる。彼がまた寝たようだと分かると、固くなったあたしの身体から少しずつ、ゆるゆると力が抜けた。
小さく息をつく。
彼は絶対にそんな小さな音では起きないだろうと頭では思っているのに、自然とあたしの溜息は本当に小さくなっていた。
彼が静かに息をする度に、背中越しに彼の心臓が動いているのが伝わってくる。
あたしのそれはいつもより相当速くなっているのに、彼から伝わってくるその感覚は恐ろしくゆっくりな気がした。
このまま段々それが遅くなって、最後には彼の心臓が止まってしまったらあたしは泣くのかな、なんて馬鹿なことを一瞬考えて、直後に自分で苦笑した。
泣くわけがないことは、あたしが一番わかってるのに。