クライング
□シリウス
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「近くに居ても遠い」、なんて。
そんなありきたりな言葉は少し前まではあたしからはずっと遠くにあって、誰かがあたしの周りで悲しそうに嘆いていても、あたしは小さく頷いて、慰めるように笑うことしかしなかった。
そんな感覚、あたしは知らなかった。
近くいるのに
手を伸ばせば触れられるのに
だけどあたしは彼には絶対触ることが出来ないのだ。
まるで、彼は雲みたいだと思った。
見えているのに掴めなくて、抱きしめてみたら消えていて。
彼の黒い雲が降らす雨は容赦なくあたしを濡らすのに、あたしはそこからいつまで経っても逃げられないのだ。
その雨が降る度にあたしの足元はどろどろに溶けて、あたしは深くへと静かに、でも確実に、足を取られて動けなくなっていくから。