長編

□円堂店長と料理長
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爺ちゃんの残した唯一の遺産、「喫茶・雷門」。この店を立て直して爺ちゃんの思いを受け継ぎたい!という気持ちは、父さんは賛成してくれたけど母さんは案の定渋っていた。
元々資金だってそんなに無いなか、昨日今日学校を出たばかりの素人が飲食を扱う店を簡単にやっていけるとは思えないからだ。
しかし、そこは学生時代築いた人脈でカバーしてみました結果…








「ごめん…風丸、ほんと」
いつもする事が本気で無いため、滅多に立ち寄らない厨房の入り口に、いつでも土下座OKな俯き具合で幼なじみに突然の謝罪。
案の定きょとんとした顔で「大丈夫か?」と流された。

「いや、せっかく“陸”から無理して来てもらったのにさ、毎日毎日粗末なメニュー作らせて…」
「ああ、そのことか…」

ここ最近で近場に増えてきた飲食店。元よりこの古い雷門と同じくらい居座っている「帝国」の他に、極近くにある高級レストラン「陸」。贅沢な装飾の施された帝国と違い、清潔感と清涼感で飽きを感じさせない内装と徹底された店員の教育から、全国誌でも取り上げられているほど。

一年前にそこに就職した風丸に、申し訳なさ120%でここ、雷門の料理内容に指導をして貰お
うと頼み込んだら、じゃあ、いっそのことそっちに行くよーとてっきり雷門の店内で教鞭を奮ってくれるのかと楽観視していたら、まさかの再就職だったのが1ヶ月前。
本人は、陸は堅苦しい雰囲気でやりにくかったと笑うが、あの晴れやかな場所から俺の甘えで引きずり落としたかと思うと、毎日謝り倒しても足りない気がする。

「いいよ、小綺麗な料理作るのも悪くなかったけど、今のこういう温かみのある軽食の方が性に合ってるよ。むしろ礼を言いたいくらいだって」

厨房に立つ時は普段顔にかかっている前髪をピンで頭に巻いてる三角巾に留めて、ニカッと笑う姿に感じる慈愛…思わず白いただのエプロンが割烹着に見える幻すら見える。
幼き頃の記憶がフラッシュバックし、抱き縋ろうと一歩片足を踏み入れると…





「か、母ちゃ…ゴッ!?」
「薄汚い格好で厨房入んな!」

台所のお友、三角コーナーが飛んできました。

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