お題・挑戦系

□馬週間
2ページ/8ページ

『一日目:椿』姜維視線


「馬将軍には赤が似合いそうですね」
その何気ない一言に見てわかるほど馬超の表情が固まった。
「馬将軍?」
馬超は向きを変えると、足早に去っていってしまった。

姜維はなにか悪いことでも言ってしまったのかとしょんぼりとしながら廊下を歩いていた。
「おや、姜維どういたしました?」
「丞相・・・実は、馬将軍を傷つけてしまったようなんです」
姜維は尊敬する師である諸葛亮に全てを話した。
「そうですか、おそらく馬超は西涼の野獣という通り名を気にしているのですよ。それで血を連想する赤を嫌った、というところでしょうか」
「それは馬将軍に悪いことをしてしまいました」
姜維は己の心無い一言を反省してうなだれた。
「姜維、あなたは悪気があって言ったわけではないのでしょう?でしたら素直に謝れば大丈夫ですよ」
諸葛亮の微笑みに姜維は強く頷くと馬超を探すために走り出した。
その後姿を諸葛亮は静かに微笑みながら見送った。


馬超を探すために走っていた姜維の足がふと止まった。
視線の先には美しく咲き誇る椿の花があった。
冬の寒さにも負けず、艶やかに強く咲くその赤はまるで馬超のようであった。
「そうか、馬将軍の赤はこの色か・・・」
「俺がなんだ?」
突然後ろからかけられた声に姜維は驚いて後ろを振り返った。
そこには少しばつの悪そうな顔をした馬超が立っていた。
「あ、え、あの先ほどは失礼なこと言ってすみませんでした」
「いやこちらこそすまなかったな。先ほど諸葛亮に怒られてきたところだ」
そういって極まりが悪そうに頭を乱暴に掻く。
「他意はなかったのに悪いことをした。少し過敏になりすぎていたようだ」
「いえ、こちらこそ馬将軍のことをよく知りもせず失言でした」
不意に視線をそらした馬超が脇の椿に目を留める。
「寒椿か・・・見事なものだな」
その横顔がどこか悲しそうだったので、姜維は思わずその手を握った。
驚いてこちらを見てきた馬超の澄んだ眼を見つめながら姜維は言う。
「馬超殿は血の赤ではありません。馬超殿はこの椿のように凛とした赤です」
「俺が椿のようだと・・・?」
「そうですよ。冬という厳しい地にあってもその強さを失わず、美しくまっすぐに咲き誇るそんな赤ですよ」
そこまで一気にいった姜維は頬を染めると、一歩後ろに下がった。
「すみません、なんか変なこと口走っちゃって。ごめんなさい、忘れてください!」
姜維は早口でそれだけ言うと走り去っていった。
一人残された馬超はしばらくその後姿を見ていたが、やがてまた脇にある寒椿に視線を戻した。
「椿のようか・・・面白いことを言う」
馬超は微笑みながら椿を見上げた。
風に舞い、椿の香りが辺りに香る。
馬超は椿の花を一輪手にすると、ゆっくりとした足取りで歩き出した。
その後ろで椿の木が風に揺られて頷くように一度だけ揺れた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ