お題・挑戦系

□朧の森に舞い降りた竜
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霧がかる湖畔に人影が動く。
「今日は視界が悪いわね」
霧の所為で薄暗くなっており、視界もはっきりとしない。時々蛍のような明かりが行きつ戻る様はまるで夢の中のような景色だった。
「これじゃあ、モンスターが見つけにくいわね」
パイが辺りを用心深そうに見回すと、先頭に立って進み始めた。
その後を打たれ弱いアトリと朔を守る形でエンデュランスとクーンが続く。
ちなみにはじめは望がいたのだが、エンデュランスがいるのならと半ば強引に朔が参加することになったのだった。
「そのモンスターはどんな姿をしているんですか?」
アトリがパイに訊ねた。
「目撃談によると姿は黒くてわりと小柄で、あと翼がはえているらしいわ」
「AIDA反応は?」
「出てないわ。ただ、このフィールドにモンスターが出ること自体がありえないことだから、つまりAIDAとも言えるわ」
「それってどういう・・・」
アトリのすぐ後を歩いていたエンデュランスが不意に立ち止まった。
「どないしたん?エン様」
エンデュランスは問いかけに答えず、ただ右手の方向を見あげている。視線をたどるとその先には宙に浮かんでいる竜の像があるだけだ。
「いったい何があるんだ?」
「・・・・・・くる」
竜像が動いた。というのは少し違うかもしれないが、確かに竜像の一部が崩れ落ちた。
チリーン
澄んだ鈴の音が辺りに響き渡る。
「アトリちゃん」
アトリは耳を押さえてうずくまる。
「AIDAです」
竜像から堕ちた影は翼を広げると、宙に舞った。
そしてしばらく遊ぶかのように翼を上下させた後、いきなりアトリたちの方へ風を切り裂くように滑空してきた。
「ぐあぁああぁぁあぁああ」
声にならない叫びが空気を震わす。
チリーン
音が知らせるまでもなく、頭よりも先に心でやつがAIDAだと感じる。抑えきれないほどの衝撃が体の中で暴れ狂う。
戦いたい殺したい壊したい力を放ちたい暴れたい全て消したい・・・
「ああぁぁあぁあああ」
「きゃあああああ」
その衝動に答えるかのようにアトリとエンデュランスが叫びだした。
「今度はなに?」
「アトリちゃん、エンデュランス!」
「きゃあ、エン様どないしたん?」
慌てて駆け寄るが衝撃波のようなものに跳ね飛ばされた。それは一定の周期を持ち、辺りに吹き荒れている。
確かに自分達もすさまじい破壊衝動を感じたが、それはここまでひどくなるほど程度ではなかった。暴走したのがAIDA感染したことのある2人だというのが気になる。
「ああぁああぁああああぁああああ」
謎のモンスターと2人の叫び声が重なり増幅する。
我慢できず皆耳を塞ぐが、それでも声は抑えられない。
声はどんどんと大きさを増してゆく。
やがて声は不思議な響きを帯びてゆく。まるで鈴の音のように澄んだ音色に・・・


不意に辺りが白くなった。


果ての無い白い空間に対照的に黒い人が浮いている。辺りは先ほどまでの騒ぎが嘘のように静まり返っている。
視線をずらすと、下のほうにアトリたちがいた。しかし何故かぴくりとも動かない。不自然極まりない、まるで時を止めたかのような状態で彼らは固まっていた。
黒い人影はゆっくりと歩き出した。空中にいるのにまるで透明な道の上でも歩いているかのように、しっかりとした足取りで地上にいる5人の元へと近付く。
一歩踏み出すごとに彼の体は変わってゆく。
背には翼が生え、爪は鋭く伸びる、皮膚には鱗が覆ってゆく。肩や膝の鱗が発達し鎧のような外骨格ができる。
一歩また一歩アトリたちに近付くたびに彼は異形へと変わってゆく。
彼はやがてアトリの前へと歩み寄る。もう手を伸ばせば届くほどの距離にきてようやく止まる。
そしてゆっくりと右手をあげた。
するどい爪の生えた手がアトリの首筋を撫ぜながら上下に動く。
やがて首に爪を絡ませるように手を首にかける。
爪が首筋に刺さり、赤い球が爪先に浮ぶ。
人差し指を少し動かすだけで、球が弾け線となり下に流れだす。
不意に男の動きがにぶる。
とくんと右手に刻まれた紋様が光った。

「         」

何かを呟きながら、彼は最後の一歩を踏み出した。背中から伸びた鎧が顔を覆う。
それは仮面となり、彼の顔を隠した。



世界に時が戻った。
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