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□散リユク花
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何者かの視線を感じた。振り返ると同時に襲い掛かる衝撃。
「――なっ!?」
傾く視界に移るは蒼き炎。
「お前はトライエッジ!」
まさかこんななんでもないダンジョンに出るとは・・・しかも仲間の一人も連れず、何の準備もしていない時に・・・
「――最悪っ」
ハセヲは倒れそうになるのを踏みとどまると、武器を抜いた。ただ黙ってやられる気はなかった。
せめて一矢報いようと、ハセヲは刀をトライエッジに向ける。

攻撃をまともに受け吹っ飛ばされる。すぐに壁に当たり背中に強い衝撃を受ける。覚悟はしていたがそれでも痛い。そのまま床へとうつぶせに崩れ落ちた。石の床に触れたのに体は火のように熱い。
(今まで平和に暮らしてきたのに、なんでこんなバイオレンスなことになってんだろう)
近づいてくる足音が床に反射していやに大きく聞こえる。
足音が近くで止まった。
薄く目を開けると名の由来である三叉のショートソードを構えたトライエッジがみえた。逆光の中目だけがにぶく光っている。
(これが、オレの最後の景色か・・・さえない光景だな)
ふと視界の隅で何かが動いた。
トライエッジの向こうの物陰に誰かがいる。手には大斧が構えらているのがわかった。
おそらく隙を見てトライエッジをPKKするか、死んだハセヲを蘇らしてからさらにPKしてアイテムを盗ろうと考えているハイエナだろう。
(やめろ。そいつにかかわると、ろくな事になんねーぞ)
かといってハセヲに何かが出来るはずもなく、ただそいつが見つからないうちにあきらめてどこぞかへ行ってくれるのを祈るばかりだ。
突然トライエッジがハセヲに向けていた剣先を引くと、後ろを振り返った。その目線は確かに人影の方を向いていた。
(しまった。気が付かれた)
ハセヲは満身でもって顔を上げると叫んだ。
「だめだ!逃げ―――ぐはっ」
トライエッジはハセヲを蹴り転がし黙らせると、その人影へと走っていった。
仰向けになった視界にはただ天井しか映らない。
やがて耳にはぶつかり合う音が何度か聞こえた。
そしてひときわ大きな音と悲鳴が上がる。
あたりはまた静かになった。
「くそっ、オレには何も出来ないのか」
そしてまた足音がゆっくりと近づいてきた。奴の朱色の服が一瞬返り血に見えた。
胸倉をつかまれ、持ち上げられた。
目の前には何の感情も示さない、作り物めいた顔があった。
(いや、実際作り物なんだろうけどな)
くだらないことを考え、恐怖を薄めると右手に握る刀に力を込めた。
「くらえっ」
不意をつき右下から左上へと振り上る形で刀を振るった。しかしその渾身の攻撃をトライエッジはわずかに頭を後ろに下げることで避けた。
(くそっ外したか。この化け物め)
だが完全によけられたわけではなく、頬に一筋の赤が走る。
トライエッジは右手でハセヲを捕らえたまま、反対の手で傷をなぞると行き先についた血をじっと見た。
急に右手を振りかぶると、ハセヲを壁に向かって投げた。ハセヲはまた背中から壁に激突する。
岩壁の一部とともにハセヲは崩れ落ちた。
武器はもう手元にない。
いつの間にか近づいてきていたトライエッジによってわき腹を蹴られ、仰向けにされた。
目の前にはいやに近くトライエッジの顔がある。
口元に温かな感触が触れた。血の味。
キスされたと気が付くのに少し時間が必要だった。
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