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□君とケーキを食べる夜
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「鋼の、ケーキが食べたい」
「は?」
廊下でハボック少尉にロイが呼んでいると言われ、執務室にて用件を問うとそんなことを言われた。
「イチゴのホールがいい、生クリームはたっぷりな。それでは頼む」
「えーと、何が言いたいのか全然わからないんだけど・・・」
「ああ、売っているケーキではダメだぞ。ちゃんとスポンジから焼いてくれ」
話はそれで終わりとばかりにロイは机上の書類に目を通し始めた。
「はじめからちゃんと説明しろ!」
あまりの唐突さにエドは机を叩き、説明を求める。
ロイは迷惑そうに眉間にしわを寄せながら顔を上げた。
「私は忙しいんだ。これらの書類を今日中に仕上げなければいけないんだ。中尉に説明してもらえ」
エドは後方でファイルを本棚からとりだしているリザのほうを向いた。
リザはファイルを開いて、ページをめくりながら語りだした。
「大佐は昨日ヒューズ中佐から、愛妻の手作りケーキ自慢を延々と聞かされて、食べたくなったそうです」
「だったら中尉がつくれば?」
エドは首をかしげながらリザに尋ねる。
「私を殺す気か?」
ロイのその言葉にエドは彼のほうに振り返る。
「どうしてだ?中尉は料理うまいんだろ」
「だったらそこにおいてある“ケーキ”を食べてもいいぞ」
ロイが指差す先を見ると、そこにはオレンジと緑と紫が混合した人間の想像の限界に挑戦した“ケーキ”があった。
エドは“ケーキ”を指差しならが説明を求め、ロイを見る。
「ブラックハヤテ号すら喰わん、中尉の“ケーキ”だ」
言葉が終わるか否かに、目にも映らないスピードでロイの後ろにリザは移動した。
そして手に持ったライフルをロイの後頭部に向ける。
「くだらない口を開いている暇があるなら、さっさと仕事してください」
銃口をロイの頭に押し付ける。
ロイは震える手でペンを取ると、書類にサインをした。
リザは銃口をロイに向けたまま、エドを見て満面の笑顔を浮かべる。
「というわけでエドワード君には、ケーキを作ってもらうことになったわ。生クリームたっぷりのイチゴケーキね。それではよろしく」
エドは本能的に危険を察知した。
エドは急いで敬礼をすると、駆け足で部屋を出て行った。