お題・挑戦系

□朧の森に舞い降りた竜
1ページ/4ページ

メールが届きました。
未読メールは27通あります。
発信者:アトリ
件名:お返事ください
『ハセヲさん、大丈夫ですか?
ダンジョンで私をモンスターから庇って以来、姿を見せなくなってしまって・・・・。
皆心配していますよ。
最近忙しいんですか?それとも調子でも悪いのですか?
早く元気な姿、見せてくださいね。
返事待ってます』


ハセヲが消えた。もう12日も姿を見せない。
最後に見たアトリの話では、LVUPのためにダンジョン内を2人でうろついていた時に、AIDA感染モンスターが襲ってきたそうだ。
とっさのことで反応できずにいたアトリをハセヲは身を挺して庇い、そしてかなり深い傷を追ったらしい。辛くも撃退はしたが、ハセヲは調子が悪いといってすぐにログアウトをしてしまった。
そしてそれ以来連絡がつかない。
いったい何があったのだろうか・・・
何故かハセヲの姿に闇がかかる




―堕ちた龍―




ポーンと軽快な電子音が響き渡る。メールだ。
橋の上でなんとなく川を見ていたアトリが、アイテムを換金していたクーンが、カオスゲート前でワードを選んでいた朔望が、フィールド内を走っていたエンデュランスが、動きを止め同時に顔を上げた。
そして八相を身に宿した彼らは走り出した。

発信者:八咫
件名:指令
『PKを繰り返す謎のモンスターの目撃証言が寄せられた
Θ隠されし 禁断の 古戦場だ
至急カオスゲート前にいるパイの元へ向かえ』

5分もたたずに4人は支度をすませ集まった。
「皆、準備はいい?いくわよ」
パイの言葉に皆静かにうなずいた。少しでもハセヲに近づける可能性があるのなら、それにかけてみたかった。
それに正直何もせずにいるのは精神的に耐えられなかった。
5つの光がカオスゲートを照らした。
消える瞬間アトリはそっと自分の手の甲を見た。


「おそろいですね」
横を歩いていたアトリは嬉しそうにハセヲに右手の甲にある刺青を見せた。
ハセヲの紋とアトリの紋をあわせたようなそれは限定クエストの賞品だ。ただデーターの関係上、今年中12月31日24:00には消えてしまうそうだ。
目線を下げると自分の手にも同じものがある。
急に恥ずかしきもちが湧き出てきて慌てて右腕を下げると、アトリの左手とぶつかった。
「あっ・・・・ごめん」
どけようと手をどけると、逆にアトリにつかまれた。
アトリはじっとハセヲの眼を見てきた。
何だと見つめ返すと、少し恥ずかしそうに目線をそらすと消えそうな声でそっとつぶやいた。
「あの・・・手、繋いでもいいですか?」
思いがけない言葉にハセヲは思考が停止し固まってしまった。
しばらく間を置いてから小さくうなずいた。
アトリは嬉しそうに笑うと、少し力を込めて手を握った。
そのまま暫く2人で特に目的もなく夕暮れ時の街を歩いた。人々のざわめきが遠く聞える。
アトリの手のぬくもりが伝わってくる気がして、ハセヲの手を握る力を込めた。
「私達、他の人から見たら、どんな風にみえるんでしょうね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さあな」
急に眼をそらしたハセヲの顔が赤くなった気がして、アトリはそっと微笑んだ。
そして二人は夕焼けに照らされながらゆっくりと街を歩くのであった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ