その他

□黄昏刻の草原
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― 黄昏刻の草原 ―

黄昏刻の草原を彼はただ一人歩いていた。
夕日があたりを黄金に染め上げる中、男の羽は何にも染まらずただ血のように赤い。
それは男が今まで消してきたモノたちの流した血なのだろうか。
それとも今まで消してきた街の最後の業火なのだろうか。
右手には沈む夕日、左手には昇りゆく夕月。
しかしその両方ともただ赤い。
そしてその中心をただ歩く男の羽も赤い。

男はロイ・マスタング、天使だった。しかし生まれたときから羽は赤く、異端視扱いされていた。
ロイは自分が嫌われていることが分かっていた。だから皆が嫌う仕事を受け、少しでも役に立とうと思っていた。
だから人も街も消してきた。
そしていつしか彼はこう呼ばれるようになった。
“紅翼の破壊天使・ロイ”
皆ロイのことを言うときは「あのロイ」とか「彼」などと呼んでいた。良識的な一部の天使しか彼をまっすぐに見ることはない。
だが自分のせいで彼らまで嫌われるのを見るのは忍びなく、ロイは自然彼らから距離をおくようにした。彼らもロイの考えを理解し、自然に離れていった。
もはや誰もロイのことをまともに見ようとはせず、ロイも彼らに何も期待しない。
ロイはただ与えられた仕事を黙々とこなすだけだ。
もういくつの街を消したのか、何千人ものヒトを消したのか分からない。
もはや昔からいやだった赤い羽根を振り返ることはしない。きっと後ろには赤い道が続くだけだから。


黄昏色の草原をただロイは歩く。
そんな彼を一人の少年が待っていた。
少年は黄昏色をしていた。影も服も髪も眼も夕日に染まり黄金だ。
風が二人の髪を揺らす。
ロイは黙って少年の横を通り過ぎる。
「待てよ」
少年が声をかけるがロイは立ち止まらない。
「待てって言ってんだろ!」
ロイはようやく立ち止まると、ゆっくりと振り返る。
「何のようだ」
その姿は逆光のせいもあり、少年とは真反対の夜色だ。そして闇に近い色の瞳がじっとこちらを見てくる。
「オレはリゼンブールの生き残りだ」
ロイのそんな姿にも恐れた様子を見せずに、少年は血を吐くように叫ぶ。
「そんな所知らんな」
「たった3日前にあんたが滅ぼした村だ」
少年はまるで血を吐くようにロイに向かって感情をまっすぐぶつける。
対してロイはまったくの無表情で答える。
「3日前?・・・・どれかもわからん」
「どれだと?お前はなぜオレの村を消したんだよ」
「邪魔だから消してこいと言われたからだ。そんな所はいくらでもある」
「邪魔だからリゼンブールを消したのかよ。それだけの理由でピノコばっちゃをウィンリを村の皆を殺したのかよ」
素直に感情を吐露できる少年がまぶしくてロイは眼を細める。

その隙を付き、少年は走った。
懐に飛び込んできた少年に対して行ったのは無意識下の反射行動だった。いつもやっているように力を解放した。それだけで少年は消える。はずだった。
ただ黄昏色の眼が彼を途中でとどまらせた。ロイの羽から現れた炎はほんの少し現れただけで、すぐに風に溶けた。
しかしそれだけであっても少年を殺すには十分だった。
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