FF7

□聴客のいない演奏会
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ニブルヘルムの神羅屋敷にセフィロスがこもった。こっそり覗いてみたら、地下の研究室で何か調べているようだった。
あまりの暇さにクラウドはよくザックスと玄関ホールでよく修行の真似事をして、セフィロスにうるさいと怒鳴られた。
そんな非日常がいつまで続くのかはわからなかったが、各自退屈をつぶすかのように遊び暮らしていた。

夜、クラウドは目が覚めた。
もともと眠りが浅い性分で寝不足に悩まされることも多い。
隣のベッドで爆睡しているザックスがこちらに気がついた気配はないようだ。
クラウドはそっと部屋を抜け出す。
廊下に出ると月が目に映った。
今日は満月だ。明かりをつけなくても足元は明るい。
ひんやりと冷えた空気が足元に流れる。
特にどこかに行こうという目的があるわけではなく、少し体を動かして眠気が訪れるのを待つつもりだった。
下へ降りようと階段を降りている途中、ふと足が止まる。
「何か・・・・聞こえる」
こんな夜中になんだろうと、音の聞こえるほうへ足を向ける。ザックスを起こそうかと思ったが、安眠しているザックスの顔を思い出し、一人で行くことにした。
クラウドの背を月が照らす。
途切れ途切れに聞こえてくる音はどうやらピアノのようだ。
確かに1階の西の部屋には古ぼけたピアノがあったが、こんな時間に誰が弾いているのだろうか。
クラウドは音をかき消さないようにゆっくりと静かに近付いていく。
近づくにつれ音は少しずつ大きく明確に聞こえてくる。
やがてピアノのある部屋の前まで来てしまった。
どうしようと動きを止めたクラウドに、悲しげなゆっくりとした音が耳を打つ。
ほんの1つの刺激で崩れてしまいそうなもろさを持った音楽を壊したくなかった。だけど好奇心を押さえられず、クラウドはできるだけ静かに扉を開く。
扉を隔ててどこか無機質に聞こえていた音に表情がつく。まるで歌うようにピアノの音の一つ一つが深く深く何かを、誰かを求め叫ぶ。
だからクラウドは魅かれたのだろう。この狂おしいほどの求愛曲に。

ふいに音色が変わった。

今までのゆっくりとした調子ではなく、速く激しくまるで高まる焔のように勢いを増していく。
開いた扉からピアノが見える。
ピアノの前には銀色の髪の人物がいた。
「セフィロス?こんな夜更けに何してんだ」
疑問は浮かぶが、それを問える雰囲気ではない。クラウドに出来たのはただ静かに音の波に揺られ漂うばかりだ。
曲はどんどんと激しさを増す。
もっと強く、もっと速く。元の音律を無視してただ激しさのみが増す。
欲しい 欲しい あなたが欲しい 逢いたい 一緒にいたい 寂しい  好きだ 触れたい 触りたい
銀の髪を振り乱し歌い続けるその背中は泣いている子供のようだ。大切な何かを求め啼いている。
無意識下で涙を流すクラウドの耳がふいに覆われた。
「それ以上聴くと連れて行かれるぞ」
温かい手のひらを感じながら、クラウドは黙ってうなずいた。
「ねえ、ザックス。この思いは誰かに届くの?」
「ちゃんと届くさ。だってお前の心にはちゃんと届いたんだから」
ピアノは激しさをますます増しながら流れてゆく、月の光も届かぬ地下に眠る男の元へ。
それは滅びへの前奏曲
それは狂おしいほどの求愛歌
それは汚れきった鎮魂歌・・・

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