FF7

□想いと望み
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その人は僕が今まで出会った中で一番美しい人でした。
神羅ビルの中にセフィロスは父とともに住んでいた。セフィロスはよくそこから抜け出して宝条の仕事場へ遊びに行った。
研究員の邪魔をしないようにいろんなところを見て回っていると、立ち入り禁止と書かれた扉を見つけた。
興味がわいたセフィロスはこっそりと忍び込む。
部屋はほかの研究室と同じつくりだった。ただ違うのは部屋の中心に大きなカプセルがあることだった。
何が入っているのだろうとセフィロスは中を覗き見る。
そこには溶液に漂い浮かぶスーツ姿の男がいた。

その日以降セフィロスは人の目を盗んでその部屋に入り込んだ。
その人はただ静かに眠り続けている。
生きているのか死んでいるのかさえもわからない。それでもほぼ毎日セフィロスは会いに行く。
ある日いつものようにその人を見ていると、ふいに部屋の扉が開いた。
セフィロスは慌てて物陰に隠れる。
入ってきた人物はセフィロスに気がつかなかったようで、部屋に入ってくると資料などを漁っている。
セフィロスは見つからないように祈りながら息を殺し隠れ続けた。
こっそり物陰から伺うと、資料を漁っている見慣れた背中は父である宝条のようだ。
宝条は数点の資料を手にセフィロスに背を向けたまま、部屋から出ようときびすを返した。
ふと何かに気がついたように振り返った。
セフィロスは見つかったのかと身をすくめたが、どうやらそうではないようだ。
なぜなら父の顔は今まで見たことない若々しい表情をしていたからだ。そのうれしそうな悲しそうな、いろいろな感情が入り乱れた表情は見ているセフィロスの胸すらもかき乱す。
彼はほかの何も目に入らない様子で、部屋の中心で眠り続ける男を見上げる。
「・・・・・・ヴィンセント・・・」
そっと砂糖菓子でも口に含んだようにつぶやくと宝条は出て行った。
セフィロスは宝条が戻ってこないことを確かめるとそっと物陰から出た。
「ヴィンセント・・・それがあなたの名前なの?」
己の望みの全てを放棄した男は、己への想いを知ることなく眠り続ける。

1つ知るとさらにその男のことを知りたくなった。
セフィロスは部屋の資料を読み漁るだけでは気が済まず、資料をコピーすると自分の部屋に持ち帰りそこでも読み続けた。
昔読んだ物語に出てくる悪い魔法をかけられたお姫様のように眠り続ける男の、ヴィンセントのことが毎日少しずつわかるのは本を読むようで面白かった。
けしてきれいとは言いがたい経歴を知っても彼を求めるのはやめれらなかった。
それどころか血に染まった体なのに、まるで水晶のように透き通ったままの彼の姿に余計に魅かれはじめた。
彼と話がしたい
彼に触れたい
彼に・・・会いたい
一度望み始めた欲望はなかなか消えない。

ヴィンセントは宝条の実験体だとわかった。
そして失敗作・・・・肉体強化には成功したが意識がもどらないとある
だがなぜほかの失敗作のように廃棄されもせず、かといって実験もされもせずに保管されているのかわからない。
ただ父のあの表情が全てを語っている気がした。

そして僕はあきもせず彼に会いに行く。
彼が目を覚まし、安らかな眠りの変わりに悪夢を生きることになるその日まで。
「ヴィンセント・ヴァレンタイン」
そうつぶやいた名前は、あの日の砂糖菓子のように口の中でとけて消えた。

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