京極

□Happy? Halloween
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神無月も末の夜更け、又市が日本酒片手に月見酒としゃれ込んでいると来客があった。
玄関の戸を開けるとそこには“なまはげ”がいた。
「悪い子はいねがー」

 Happy? Halloween


あれは十日ほど前のことだった。
「又市さん、10月31日って暇ですか?」
又市の家を訪れた百介は突然そんなことを聞いてきた。
「特に用事はござんせんが、何かありやすんで?」
又市は煙草を口に銜えたまま器用にしゃべる。
「はい、実は“はろうぃん”というお祭りをやってみたくて、それで又市さんにお菓子を配っていただきたいのですが・・・もちろん、お金は払いますよ」
「奴はかまいませんよ。ところでどういう祭りなんで?」
「お化けの仮装をした人たちが家々を巡り「Trick or treat! (お菓子をくれないといたずらするぞ)」といってお菓子をもらうお祭りだそうですよ」
話しながらももう既に百介はわくわくしている。
「参加するのは私とお銀さんと治平さんと徳次郎さんの4人です。もしかしたら増えるかもしれませんけど」
「あいつら、よほど暇なようだな」
又市は銜えていた煙草の灰を土間に捨てる。
「又市さんは家に居て、仮装して訪れた人にお菓子を上げてください。仮装はしたければどうぞご自由に。あと、玄関口にこの南瓜の行灯(jack-o’-lantern )を置いてくださいね。これが目印なんですって」
それだけ言うと百介は大きなオレンジ色の南瓜とお金を置いて帰っていった。
“はろうぃん”の幹事として色々忙しいそうだ。
その時点では又市は子供の遊びに付き合うような、軽い気持ちだった。



―当日。
夕焼け空に闇が迫るころ、一人目の訪問者があった。
「Trick or treat!」
露出の激しい恰好をしたお銀だった。
黒を基本としたロングドレスは胸元が大きく開いており、スリットも深く入っていた。
そして何よりも目を奪うのは、ドレスから生えている黒の尻尾と猫耳だった。
どうやら化け猫の仮装のようだ。
「お前はどこの風俗店のまわし者だ」
「お客さん、ツケはちゃんと払ってねvvというわけでお菓子おくれよ」
近所の人の目が気になる又市は、お銀に菓子を渡すと追い出した。
「もっとまともな恰好をして出歩きやがれ」
「あんたもいい加減服洗濯しなよ」
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