京極

□関口巽といく文化祭2004
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関口巽と文化祭2004
秋晴れのある日、いつものように特に目的もなくふらふらと小説家の関口巽が町をふらついていると、緑色のポスターが目に入った。
なぜかそれに興味をそそられて近づいてみた。
「浅岡農業高校文化祭 飛び出そう!未来の大地へ
11月8日(金) 一般公開 9:30〜13:30」
とあり、その下には牛や鶏といった家畜と制服を着た女の子の絵が描いてあった。
自分のときの文化祭はどんなのだったかと記憶を探ってみたが、かすかに触れただけで何か嫌な記憶までよみがえりそうになったのでやめた。
「文化祭か・・・・」
関口はぼそりとつぶやくと町の雑踏の中に消えていった。今日は文具屋に行こうと心を決めたのだった。
話はそれで終わるはずだった。

次の日、いつものように古くからの知人、中善寺秋彦の経営する古本屋、京極堂でごろごろしていると勢いよくふすまが開けられた。
「京極堂!僕は暇だ。何か面白いものはないか。おお、サルもいたのかサル芸のひとつでも見せろ」
開けたのはこれまた古くからの腐れ縁で、生まれながらの探偵とも神とも豪語する変な人、榎木津礼二郎だった。
「家のふすまがいつか壊れてしまいますから、もっとゆっくりと開けてください」
「相変わらず不機嫌そうな顔しているな」
榎木津は楽しそうに笑う。
「おや、それはなんだ?」
榎木津は机の上にあった新聞の下にある緑色の紙を手に取った。それは関口が昨日町で見かけたのと同じものだった。
「文化祭か、面白そうだな!」
榎木津の笑顔がとてもまぶしい。
「千鶴子がどこかからかもらってきたんです。行きたそうにしてましたが、その日は予定があると嘆いていましたよ」
千鶴子とは京極堂の妻の名である。関口の妻の雪絵と仲良しでよく亭主を残して遊びに出かける。
「それじゃあ、代わりに僕が行ってやろう!よし京極堂とサルも行くぞ。ついでだ下駄も誘っておくか」
関口が反対するよりも先に榎木津は窓から飛び出て行った。
「せめて玄関から出て行ってください」
京極がその背中に力なくつぶやいた。

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