三国・戦国

□最後の月
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注意:これは死にネタ&かなり暗めです。



最後の月



彼の人の首がゆっくりと地に落ちていくのを、どこか冷えた頭でじっとみていた。
音が聞こえない中、最後の吐息だけがいやにはっきりと聞こえた。
この体に縄が打たれていなければすぐにでも駆けつけたかった。
彼の最後の表情を何も覚えていない。憎しみに顔をゆがめていたのか、死を悲しんでいたのか、それともどうでもよさげに笑っていたのか・・・・
しっかりと見ていたはずなのに、思い出せない。
ただ彼の少し笑ったかのような口元だけが赤い色とともに瞼裏にしっかりと刻まれていた。





彼の後を追い、死にたかった。
殺してくれと懇願し、処刑台に上った張遼を救ったのは将友である関羽であった。
「なぜ、私を生かす。このまま一緒に死なさせてくれ!」
すべての将の処刑が終わった刑場で唯一生かされた自分は関羽にそう叫んだ。
命は助けられたが、未だに拘束は解けない。
この両手さえ自由であれば、この手に刃物さえあれば・・・・共に死ねたのに。

なぜ、私一人が生き残らねばならぬ。
なぜ、あのまま死なさせてくれなかったのだ。
私はそなたを憎む。

そう叫んだ自分に関羽はただ悲しそうな声で生きろとだけ言った。
その後、張遼は舌を噛み死のうとしたがすぐに猿轡をはめられ、そのまま関羽とは会話もないまま別れた。



ただ、ただ死にたかった。



魏に連れて行かれてからは驚くほどに大人しくなった張遼に人々は初めは自殺しないように警戒していたが、軍にも積極的に関わるようになり、人との交流もうまくいっているようなので徐々に警戒を解いていった。
ただその中で夏侯惇だけが冷めた眼で彼を見ていた。
「孟徳、あれは諦めろ」
「なぜだ?ほれ、あのように我が国にもすっかり慣れたようだぞ」
指差す先では張遼が数人の武将と笑いながら酒を飲み交わしていた。
夏侯惇はそれでも首を振った。
「あの暗い瞳には誰も映してはいない。何も望んでいない。あれは壊れることを望んでいる」
「ははっ、お主は気にしすぎだ。そんなに考えてばかりではなく、たまには酒でも呑んで騒げ」
「いや、お前が気にしないというのならいい」
夏侯惇は曹操に差し出された酒を受けると、一気に呑みほした。
だが、その冷めた眼は張遼から離れることは無かった。



「では、お休みでござる」
酒宴が終わり、張遼は少し足元の危なげな徐晃を部屋まで送っていった。
「明日は7時に鍛錬場でよかったかな?」
「ああ、明日こそは貴公に負けないでござるよ」
「こちらこそ、手は抜きませぬぞ」
徐晃は酒が足に回っているのか、ふらふらと辺りにぶつかりながら室内に消えていった。
その姿を見送ってから張遼は一人で部屋へと向かう。
冷え切った廊下が少し酔った体に心地よい。
ふと廊下から見上げた夜空には少し欠けた満月が昇っていた。
懐から護身用の短剣を取り出すと、鞘から抜いた。冷えた刃に月の光が反射する。
いつしかその顔には笑みが浮かんでいた。

「呂布殿、今そちらに行きます」

笑みを浮かべながら張遼はそっと首元に短剣を当てた。
本当に今日は死ぬのにはいい日だ。
月を見上げながら、張遼は刃を強く押し当てる。
その幸せそうな横顔を月だけが静かに見ていた。





なんだか突然書きたくなった電波張遼→呂布
そんな愛の形もあり?とか言ってみる。
史実無視してすみません。
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