三国・戦国

□聖なる夜の小さな奇跡
1ページ/3ページ

それは聖なる夜の小さな奇跡




ぽてぽてと軽快な足音が今日も下邳城の中に響きます。
この城の城主でもあり将軍でもある呂布奉先です。しかしその姿はどうみても3・4歳の幼児にしか見えません。
身の丈よりも長い方天画戟を肩に、トレードマークである髪飾りをピロピロと軽やかに今日もご機嫌そうに呂布君は歩いていました。
そんな呂布君に声を掛ける人影があります。
「もし、あなた様は呂布奉先とお見受けしますが、今お暇ですか?」
呂布君が振り向くと、そこにはカボチャを頭に載せ白い服を着た男がいました。そんな鯰髭を生やした男を今まで見た覚えはなかったので、呂布君は少し警戒しました。
「おぬし今まで見た事無いな、何者だ?ここまで入り込むとは只者ではないようだが」
舌足らずな声で問いかけます。
「ふふふ、まあ謎のカボチャ仮面とでも答えておきましょうか。ところで飴、食べます?」
そっと羽扇で口元を隠し自称カボチャ仮面は笑いながら、どこぞかから飴を取り出しました。
「うん、食べる!!」
とたんに呂布君は警戒を解き、満面の笑みを向けました。男もそれに答えてにっこりと上品に微笑みました。
ああ、この人はいい人なんだな。と呂布君は思いました。
早速食べた飴は口の中でとても甘くとろけます。
「おじちゃん、飴ありがとう」
「はい、私も呂布奉先殿に喜んでいただけて光栄です」
「ところでおじちゃん僕に用ってなあに?」
男は静かに微笑みゆっくりと言いました。
「実はある方からの依頼で来たのですよ。その人は呂布君に普段のお礼としてクリスマスプレゼントを送りたいと思っていまして、それで私がなにか欲しい物は無いかとこうして訊きにきたわけです」
「くりすますぷれぜんとってなあに?」
呂布君は聞きなれない単語に首を傾げます。
「おやおや、ここではクリスマスは一般的ではございませんでした。私としたことが失策でしたね」
「おじちゃんおじちゃん、よく陳宮がね『知らないと言うことは悪いことではありません。悪いのは知ろうとしないことです』ってよく言うの。だからね、おじちゃんも僕も悪くないの。知らないなら学べばいいんだよ」
一生懸命説明しようとする呂布君をみてカボチャ仮面は自然に微笑んでいました。
「そうですね。ではお茶でも飲みながらゆっくりと語りましょう」
いつのまにかすぐ側に用意されていたお茶セットが暖かな湯気を上げていました。その側では金ぴかの兜を被った武官のような男が立っています。
「この人は?」
「下僕の馬仮面ですよ」
「ふ〜ん」
呂布君は進められた椅子に腰掛けると桃饅にかじりつきました。



ぽてぽてと軽快に歩く呂布君はどこかご機嫌そうです。ちょうどそこに通りかかった張遼さんが声をかけました。
「呂布殿、今日はご機嫌ですね」
「ああ張遼か、実はカボチャ仮面にな。“クリスマス”ってのを教えてもらったんだ」
「カボチャ、仮面にですか?」
「そうだ。カボチャ仮面はなんでも知っていて凄いんだぞ」
呂布君は瞳を輝かしながらカボチャ仮面について語ります。張遼は表面上は微笑みながら話を聞きました。
(諸葛亮、なぜここまで来ているんだ!!)
非常な疑問が胸をよぎります。軍の機密云々よりも呂布君に何かされないか不安でした。
さすが山田パパ。
「それで、そのくりすますっていうのはなんなのですか?」
「あのね、あのね、クリスマスっていうのはね。もみの木にいろいろ飾り付けをしてそれで夜になると赤い服を着たサンタさんがトナカイに乗ってやってきてね、いい子にだけ贈り物をしてくれるんだって」
頬を赤く染めながら呂布君は一生懸命に語ります。
その話を1つ1つ頷きながら張遼は黙って聞きます。
「ねえ、僕いい子にしてたら、サンタさんに会えるかな?」
「おや、奉先さまは何か欲しいものでもおありで?」
「あのね、ないしょなんだけどね、いっつも皆いっぱい働いて大変そうだから、皆にお休みが欲しいの」
張遼は驚いて目を大きく見開いた後、優しく微笑みました。
「大丈夫ですよ。呂布殿はいつもいい子ですから、きっとサンタさんに会えますよ」
「でも僕夜になると眠くなっちゃうから、サンタさんにあえないかも・・・・」
「じゃあ、私が見張っていますので、さんた殿に会えたら願い事を伝えておきますね」
「うん、じゃあお願いするね。それとねいつもご苦労様って伝えておいてね」
「わかりました」
呂布君はそれだけ言うとまたご機嫌そうにどこかへ歩いていきます。おそらくはクリスマスのことをもっと人に言うつもりなのでしょう。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ