三国・戦国

□血雨
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14.血雨

雨の中に一人男が佇んでいた。
緑色を基調とした鎧は血と泥によってすっかり黒ずんでいた。
ゆっくりと空を見上げると、頬をぬらす血が流れていく。
それはまるで涙のように頬に紅い道を残した。

もうどこにも帰れない。

道はこの雨でふさがってしまったのだから。


「いたぞー!」
「討ち取って名を上げろー!」

後ろから声が近づいてくる。

何人もの足音が水を跳ねながら静かな大地に沈み込む。
もう呼吸の音さえも聞こえそうだ。
そこまで近づいているのに動かない関平を異様に思いながらも、雑兵は立ち止まることはなかった。
「一番槍は俺だ」
そういって先頭にいた男が槍で彼の腹を狙う。

不意に雨がやんだ。

一瞬の間を置いて吹き上がるは赤い雨。
後ろにいた男たちは一瞬で消えた仲間の頭を不思議そうに眺めていた。
雨は関平の手にある大刃によってさえぎられていた。しかし、代わりとばかりに赤い雨が彼らの足元をぬらす。
「ひっ、化けも・・・」
怯えたように叫んだ男の胴体は次の瞬間消えていた。
ゆっくりと膝を突くようにして彼は倒れた。

最後に残った雑兵が必死に槍を握り締めた。
よほど怯えているのか槍先が大きく揺れている。足ももはや逃げ腰だ。
そんな彼に関平は右手だけで大剣を持ったまま半身でにらみつける。
そのあまりにも暗い表情に雑兵は一歩下がった。

だが、その拍子にぬかるんだ足場にとられ、後ろに姿勢を崩す。
瞬間、関平が跳んだ。
今までいた足場に矢が刺さる。どうやら彼の猛攻を恐れた兵が遠くから狙うことにしたようだ。
ぬかるんだ足場なのにまるで岩場の上のように地面を蹴ると、高く跳び大きく刀を振るった。

ガギン

大きな刀に邪魔をされた矢がはじかれ下に落ちる。
矢の飛んできた方向を見ると、木陰に隠れて何人かの雑兵たちがいた。
ひとにらみしただけで、怯えたのか逃げる影も見える。

関平はそんなやつらを無視するかのように地に座る男を見下ろした。
まるで最後の盾かのように、逃げることできず怯えた表情で必死に槍を握っていた。
そんな彼に関平は無常にも刃を振り上げる。

「    」

不意に小さな声が聞こえた。
それは死の間際にみた夢か。

関平は振り上げた刀を下におろすと、きびすを返した。
歩き出した彼を止めるものはもはやいなかった。
彼はすっかり傷ついた体を剣で支えながら無理矢理に引きずりながら歩いていく。


彼の帰りを待つものへと。


「ごめんね星彩。約束、守れそうにないや」


流れる豪流の音を聞きながら、関平はゆっくりと大地に祈るかのようにひざまずいた。
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