三国・戦国

□呉の大トラの話
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呉の大虎の話



今日も今日とてどこかで戦があった。それが戦国時代。3つの国に別れ、人々は統一王国のため、自らの願い・欲望のために戦っていた。
本日は呉と蜀が戦っていた。

「今日の総大将は孫権ですね」
「はい丞相。斥候からの知らせにもそうあります」
見晴らしの良い小高い丘にて戦の流れを読み取りながら諸葛孔明とその弟子の姜維が会話を交わしている。
風が二人の間を優しく吹き抜ける。
「そうですか・・・では敵軍の近いところに老酒と千吉仙酒を配置いたしましょう」
羽扇で口元を覆いながら諸葛亮はそういった。
その言葉に驚いたのは姜維である。
「待ってください丞相!そんなことをしたら、敵方に有利になってしまいます」
諸葛亮は振り向くことなくただ戦場を見下ろしている。
「大丈夫です。私を信じてください」
「・・・・わかりました。丞相の言うことに間違いはないですから、私は信じます」
「ありがとうございます。それでは策をお教えいたしましょう」
ようやく振り向いた諸葛亮の目には悪戯を思いついた子供のような光が宿っていた。
その瞳を正面に捕らえて姜維はにこりと共犯者の笑みで笑った。



その日の戦は蜀軍の勝利であった。
敵の総大将である孫権の進行ルートにことごとく老酒が現れ、それを君主から遠ざけようとする臣下と呑みたいと騒ぐ孫権との争いのため、戦に集中することができず呉軍は大きな被害を出す前に途中で引き上げたのであった。
戦いの終わった戦場を諸葛亮と姜維は再びあの丘で見ていた。
「丞相!作戦は成功でしたね」
「ええ、私もあの作戦がこうまで成功するとは思っていませんでした。正直5分5分の成功確率でした」
扇で口元は隠れているが悪戯っぽい瞳が優に物語っていた。
「それはとてもドキドキする作戦でしたね」
「ええ、私も失敗したらヤばいとはわかっていましたけど、なんとかなるんじゃないかなとつい実行してしまいました」
「ははっ、さすが丞相です!」
「そんなに褒めても何もでませんよ」
そう柔和に微笑みながら言うが、その口調は言葉とは逆にとても嬉しそうだった。
姜維はこのときの諸葛亮が一番嬉しそうだなと思っていた。







その後のこと・・・・
諸葛亮の策を知った曹操は面白そうというだけの理由で、司馬懿の反対を無視し同じ策を呉にぶつけた。
しかし、今度は臣下に止められる前に孫権が老酒を一気に呑んでしまったことが悲劇であった。
江南の虎の名のごとく大トラ(酒を呑むと暴れる人)となった孫権は単独で敵軍に向かって突っ込み孤立奮闘の末、結局魏軍は撤退したのであった。

そして敗退する軍の荷車から見えた老酒を見つけた孫権は、止めようと追いかけてくる臣下を後ろに何処までもついていくのであった。
それから後、孫権はまさしく孫家の正式な跡取りだと魏軍で伝えられるようになったそうだ。



呉の大トラのお話でした。

副題 酒呑み権ちゃん
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