その他

□冒険の裏側*
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カヴァロは手馴れた手つきでコーヒーを入れると、おとなしく座っていたテニアスの前においた。
「ほらよ。熱いから気をつけな」
そして自分はその向かいに座り、のんびりと自分分のコーヒーを飲み始めた。
テニアスはしばらく目の前のコーヒーを見つめていたが、やがて立ち上がるとキッチンへと向かった。
カヴァロは次は何をやらかすのだろうと目で追う。
キッチンから戻ってきたときには彼の両手には15ℓの金属の牛乳缶とやや大振りな砂糖つぼがあった。
テニアスは自分の席に戻ると、まず砂糖つぼをあけ中身を手づかみでコーヒーカップの中へと入れた。次に牛乳缶を開けるとゆっくりと缶を傾け中身をカップの中に・・・
そこまでいったところでカヴァロはテニアスの手から牛乳缶を取り上げた。
「ストップ。ミルク入れるならオレが入れるから、お前はおとなしくしてろ・・・」
キッチンへといってスプーンでも取ってこようと、きびすを返すその後ろでテニアスが立ちあがる気配がした。
今度はなんだと振り返るとこちらを見つめてくる強き光を宿した瞳と視線があった。
「いったいなんなんだ?」
時折視線が手に持った牛乳缶に送られることから、おそらく牛乳を欲しがっているのはわかった。
かといってテニアスにわたすとこぼして片付けるのが大変になるのが目に見えている。
「・・・オレにどうしろってんだよ」
助けを求め天を仰いだカヴァロだったが、その隙を見てテニアスが飛び掛った。
カヴァロは反射的に一歩引き攻撃をよける。
すぐ横をテニアスが駆け抜けてゆく。
よけるのがわずかに遅れればおそらく牛乳は取られていただろう。
カヴァロは冷や汗を内心流しながら、テニアスとの距離を置いた。
そして高い戦闘技術を持ったものたちによる低俗な戦闘が始まった。

何度も切りかかってくるのをぎりぎりで避ける。本当ならばもっと余裕を持って間合いを取りたいが、この野生動物のような男相手ではそれもかなわない。
そしてまた攻撃が向かってくる。
ひとまず手に抱えた牛乳を置きたいのだが、次々と繰り出される体当たりに近い攻撃の所為でできない。
「くそぅ、コルトのやついったいどこにいったんだよ!!」
不意にテニアスの動きが目に見えて遅くなった。どこか迷いがあるように見える。
だがカヴァロはまだ気を抜かなかった。
(オレにはこの牛乳と家を守るという使命が・・・・・あれ?)
ふと気がつきカヴァロは動きを止めた。
「そういえばそんな使命ないな・・・てか他人の家のことだし、汚すのはオレじゃなくてテニアスだし」
動きの止まったカヴァロを警戒しながら隙をうかがい、ぴくりとも動きもせずにじっとこちらを見てくるテニアスを一瞥すると、カヴァロは牛乳缶を差し出した。
テニアスはまだ警戒をしているようで動こうとはしない。
「ほれ、牛乳が飲みたいんだろ?持ってきな」
振ってもみるがテニアスはまだ動かない。
その姿は本当に野生動物のようだ。
カヴァロは本日何度目かわからないため息を吐いた。

テニアスがようやく警戒を解いてカヴァロの手から牛乳缶を受け取ったのは、それからしばらくしてからのことだった。
至極幸せそうな笑みを浮かべると牛乳缶を傾けて盛大に牛乳をコーヒーへと注いだ。
あっと言う間に牛乳はカップからこぼれ、カップの中にはわずかに茶色の牛乳が残っていた。
テニアスは缶にふたをすると机の上に置き、カップに口をつけた。
幸せそうな笑みのまま一気にカップを開けた。よほど喉が渇いていたのだろう。
その様子を見ながらカヴァロも自分のコーヒーを飲み干した。
テニアスはコーヒー(?)を飲み干すと席を立ち、どこぞかへと歩き出した。
「待て!」
強くカヴァロが言うと、テニアスはおとなしく止まり不思議そうな顔で彼の方に振り返った。
「飲んだらちゃんと片付けろ」
テニアスはこくんとうなずくと、牛乳缶とカップを手に取りキッチンへと消えた。
しばらくがしゃんとかゴンなどとあまり聞きたくない効果音がした後テニアスはふたたび姿を見せた。
そして自分の席の前に広がる牛乳の海を見つけた。
手には雑巾などの類を持っておらず、次に何をしでかすのだろうとカヴァロが見ているとテニアスは姿勢を低くし、なんと机の上をなめ取り始めた。
ピチャピチャという水音が机の反対側にいるカヴァロにまで聞こえてくる。
まさに顔中を口にしてテニアスは自らこぼした牛乳をなめとっていた。
「確かにそのほうが簡単だし、牛乳も無駄にはならないけど・・・でもな」
何かが違う・・・
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