リクエスト
□嫉妬の味は甘辛く
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居酒屋から出た飛段は不機嫌な顔のまま宿へ戻る道を歩いていた。
「堂々と行きやがって…」
「お兄さん、どう? 寄ってくぅ?」
色街が近いため何人かの女から声をかけられたが、睨みつけてから通過する。
ふと、いつから女に興味を持たなくなったのだろうか、と思ったが、その原因は自分の中で判明していることを思い出す。
すぐに角都の顔が頭の中に浮かんだからだ。
舌打ちをしたあと、それを払うように頭を振るい、宙を睨みつけながら早足で宿へと急ぐ。
何度か通行人と肩をぶつけ、その足どりは危なっかしい。
「っ!」
そして、向かいから来た大柄の男とぶつかり、尻もちをついた。
「痛ってぇな、コラァ!」
謝りもせず、飛段は声を荒げながら目の前の男を見上げた。
男もなにか言い返そうと口を開いたが、飛段の整った顔を一目見るなり罵声を飲み込んだ。
「悪かったな」
前屈みになり、飛段の右腕をつかんで立ち上がらせる。
飛段はいつまでも離さないその手を払い、「気をつけろよな」と捨て台詞を吐いてから男の横を通過しようとした。
男はその左肩をつかんで止める。
「フラれたか?」
胸に突き刺さったその言葉に、飛段は「ああ!?」と再び声を荒げて睨みつけ、背中に携える鎌の柄をつかんだ。
男は一歩引き下がり、「待った待った」と落ち着かせようとする。
「気を悪くさせたなら謝る。いや…、その顔はそうじゃねえかなって思ったけど、違うか?」
笑みを浮かべながら柔らかく尋ねると、飛段は柄をつかんでいた手を下ろし、目を逸らして答える。
「そ…、そうじゃねえよ…」
別れを告げられたわけではないが、他の女に奪われたとも話せない。
警戒が緩んだ飛段を見逃さず、男は一気に飛段に近づいてその耳に口元を近付けて囁いた。
「オレのところに来いよ。慰めてやる」
「…は?」
誘いの言葉に飛段は一瞬思考が停止した。
男は妖しい笑みを浮かべ、「オレ上手いし」と付け足す。
「……………」
男の顔はどちらかと言えば美形だ。
年は飛段より3・4上くらいに見える。
少し長めの黒髪で、肌の色は色黒で思わず角都と重ねてしまった。
そこではっとし、目の前の男を両手で突き飛ばす。
よろめいた男は咄嗟に左足を後ろに出して踏みとどまった。
「ふざけんなよ!」
逃げるように男の横を通過したとき、
「そこの古本屋の隣の宿にいるから、その気があるなら来いよ」
背中でそれを聞き、目だけで見回すと、古本屋の隣の宿はすぐに見つかった。
「行くかバァーカ!!(怒)」
思わず宿を見つけてしまった自分に腹が立ち、肩越しに男に向かって八つ当たりのように怒鳴り、自分と角都が泊まっている宿へと走った。
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