リクエスト

□歌声よ届け
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行きつけのバーにAKATSUKIは飲みに来ていた。


カウンターの席で、飛段はグラスに注がれたカクテル(ノンアルコール)を一気に喉に流し込む。


「ぷはぁっ」


もう何杯目になるのか、自分でも覚えていない。

カウンターのテーブルにグラスを置き、項垂れた。

ノンアルコールだというのに、酔っ払ったみたいに顔が赤い。


「そのへんにしておけ」


左隣のイタチがストップをかけるが、飛段は「まだ飲むゥ」と滑舌悪く言った。


「こいつ、脳内でアルコール生産してんじゃねーのか。うん(汗)」


右隣のデイダラは呆れている。


「自由に酔えますね。逆に羨ましいっス」


トビは呑気にそう言いながら、オレンジ色の面に空いている右目部分に差しこんであるストローでオレンジジュースを飲んだ。


「おい、店の迷惑になる前にさっさと帰れよ、おまえら」


このバーの店員であり、デイダラの知り合いでもあるサソリがカウンターを挟んで飛段に向かって言った。


「ああ、悪いな、旦那(汗)」

「サソリさん、もう少し優しく扱ってあげたらどうです? なんだか荒れてるみたいですし」


バーのマスターである鬼鮫がグラスを拭きながらサソリをやわらかくたしなめる。


「角都のバーカァ。なにが「本気を出せ」だ。エッラそーに。オレはいつだって本気だっての。ふしあながァ…(怒)」


飛段は顔を伏せたままうわ言のように言った。


「マネージャーがああなのは前からだ。他人を褒めることは滅多にしないうえに、厳しく言って成長させるタイプだ。あれはマネージャーなりの応援だと思う」


時々やり過ぎて恨まれることも多い。


「……わかってるけどさァ…。それでも…、オレは…、角都に褒められたい」


たった一言、「よくやった」と言ってほしくてここまでやってきた。

角都に出会うまで、自分はちっぽけな人間のひとりに過ぎないのだと卑下していたのだから。

才能を見つけてくれた角都には、憎まれ口を叩く裏で感謝している。

おかげで、あの日からリスカはやっていない。


飛段は右手首のリストバンドを撫でた。


「それ、いつもしてますね」


それに気付いた鬼鮫が声をかけた。

飛段は自慢げに見せる。


「へへっ、いいだろー。初めてファンにもらったなんだぜェ」


そう言いながら、リストバンドをもらった日のことを思い出す。





*****





2年前、初めてのライブが終わって楽屋に戻った時のことだ。


飛段はひとり楽屋に残り、缶ジュースを飲んでいた。

そこへノックしてきて返事も待たずに入ってきたのは角都だった。


「あ、角都…」


飛段は角都に振り返り、「おつかれー」と声をかけた。


「…飛段」


角都は右手に持っていた箱を飛段に差しだした。

飛段は箱を見つめ、首を傾げる。


「ファンからの贈り物だ」


角都の手から受け取ったそれを開けると、黒のリストバンドが入っていた。


「おー! スゲー!」


ひっくり返してみると、銀の糸で“HIDAN”と縫いつけられていた。

贈った本人が直接縫ったのだろう。


「角都! 似合う似合う?」


飛段ははしゃぎながらそれをつけ、嬉しそうな顔で角都に見せつけた。


「…ああ。…よかったな」

「…!」


初めて角都の笑みを見た飛段は一瞬息を呑んだ。





*****





今思えば、古傷を隠せるという理由もあるが、そのことがあったから、このリストバンドを大切にしているのかもしれない、と飛段は思った。





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