リクエスト

□その芳香だけが
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夕方、角都は、眠りに就いた飛段に布団をかけてから宿を出、町を出た。

情報では町の近くの森を通ってくる予定だ。

茂みの中に身を潜み、じっと賞金首が来るのを待つ。


しばらくして、複数の人の気配を感じた。

茂みの隙間から窺うと、顔の見えない編み笠の男を囲んだ集団が町に向かっているところだ。


(奴らだな…)


編み笠の男を囲む者達の顔は全員美しく整っているが、表情は虚ろだ。

賞金首に操られている者達なのだろう。

人間ではなく、人形そのものが動いているように見える。


集団が目の前を通過する前に、角都は袖から出した右手の指の骨を鳴らし、地怨虞で一気に編み笠の男へと伸ばした。

一部の人形達をふっ飛ばし、編み笠の男の首をつかむ。


そのまま首の骨を折ろうと力を入れたとき、つかんだ衝撃でズレた編み笠が地面に落ちた。


その顔を見た角都は、驚きに目を見開き、手を止める。


「!?」


虚ろな顔の男だ。

しかし、賞金首ではない。


角都に気付いた者達が一斉に角都のいる茂みへと警戒も恐れもなく突っ込んできた。

角都は茂みから飛び出し、人形達の相手をしながらどういうことかを考えた。


(身代わり…。まるで、オレが待ち伏せしていたことを知っていたかのような…)


そこではっとし、焦燥が生まれた。


「まさか…」


人形達は一斉に角都に躍りかかる。





*****





その頃、目を覚ました飛段は、畳に仰向けになって天井の電球を見つめながら角都の帰りを待っていた。

しかし、やはりどこかそわそわと落ち着きがない。


「ハァ…。隠れてでもついてきゃよかったぜ」


ゴロゴロと寝転がり、暗い気分を飛ばそうとしている。


「う―――」


唸ったあと、愛用の大鎌の手入れでもしようかと半身を起こしたとき、ゆっくりと襖が開いた。

その音を聞いた飛段はパッと顔を明るくさせて振り向く。


「お、角都、早かっ…」


飛段の動きが止まった。

襖を開けたのは角都ではなかったからだ。

襖を開けた者は飛段を見下ろし、口角を上げた。


「なるほど…、情報通りですね。銀髪、桃色の瞳、白い肌…」

「てめ…」


飛段は遅れてその人物が賞金首であることを理解し、勢いよく立ち上がった。

ビンゴブックに載せられていた写真と同じ顔だ。


「角都はどうした!?」


この男がここにいる、ということは角都を突破してきたのだろうか。


「角都? …ああ、私を殺そうとしている男ですか? それなら、私の人形達がお相手してますよ」


それを聞いた飛段はほっとする。


「…やられたわけじゃねーんだな?」


下っ端程度なら角都が負けるはずがない。


飛段は傍に置いてある大鎌を手にとる。


「ジャシン様に捧げてやるぜ、キツネ面」


体に傷をつけ、血を摂取するだけで飛段の勝ちだ。


飛段は賞金首に突っ込もうと構えたが、


「……あ…?」


突然、脚が震えだしたのだ。

足先から徐々にビリビリとした感覚が伝わってくる。


「な…ん…?」


言葉もうまく発せられない。


「う…」


脚の感覚がなくなり、その場に倒れる。

それを確認にした賞金首はクスクスと笑いながら飛段に近づき、飛段の脇に片膝をついて見下ろした。


「鈍い方ですね。匂いに気付きませんでしたか?」

「に…おい…?」


目覚めたとき、飛段は確かに部屋の匂いが変わっていたことに薄く気付いていた。

しかし、角都の近くにいたため、その匂いが本来のこの部屋の匂いだと思って気にしないでいたのだ。


「さあ、行きましょうか」

「く…」


抵抗したいが、最早、指一本すら動かせない。

目蓋も重くなってきた。


「か…く…」


最後に見たのは、帰ってきた角都が開けるはずの襖だった。





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