リクエスト
□意地っ張りでも
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賞金首を取り逃がしてしまい、角都の機嫌は最悪だった。
高額な賞金首なため、情報屋の情報を頼りに1週間以上かけて賞金首が潜伏している地に到着したのだ。
せっかく居所もつかんで目的の賞金首を見つけ、追い詰めたというのに、相方が水の泡に変えてしまったのである。
「角都ゥ」
「……………」
気が済むまで、自然を一部破壊してしまうほどの喧嘩したあと、角都は飛段の体を地怨虞で縫ってあげた。
その間、会話はひとつもなく、終わればまた「行くぞ、飛段」と言ってくれるのかと思っていたのに、角都は黙ったまま立ち上がり、そのまま付近の町まで行く道のりを歩きだしたのだ。
飛段は慌てて追いかけて文句を連ねたが、角都は一言も言い返さなかった。
目を合わそうとしても、逸らされてしまう。
「角都よォ」
「……………」
長引く角都の無視に、飛段は不安を募らせた。
それに伴い、苛立ちも倍増していた。
「角都ちゃーん」
「……………」
……プイッ
「んだァ!! クソジジイ!!(怒)」
ゴッ!!
殴られるが言葉はない。
*****
付近の町に着いたあとも、角都は無視を続けていた。
町を歩いているときも、食事をしているときも、宿に入ったときも。
宿の2階の部屋で、飛段は、座卓で帳簿をつけている角都の背中をじっと睨むように見つめていた。
角都はもともと無口なのは知っているが、わざと無口になられるのは余計に気に食わない。
敷かれた布団の上でゴロゴロと仰向けになったりうつ伏せになったりしたあと、飛段は我慢できずに角都に声をかけた。
「いい加減機嫌直してくんねーかなァ。ガキじゃあるめーし…」
「……………」
角都は一度筆を止めたが、再び動かし始めた。
飛段の眉間にさらに深い皺が刻まれる。
「ホント、1回キレるぞ」
「……………」
飛段は角都に近づき、背中に触れた。
「角都…」
飛段の不安混じりの声に、角都は筆を置き、飛段に振り返った。
「もういい。寝ろ」
実は、角都の機嫌は町に入る前に直っていたのである。
飛段を反省させるためにわざと無視を続けていただけだった。
食事の時に無視をやめようかと思ったのだが、タイミングがわからず長引いてしまっただけなのだ。
これで飛段が安心して眠りに就けると思ったが、
「……「もういい」って…」
「今言った通りだ」
「……………」
飛段は「もういい」の言葉を、拒絶ととらえてしまった。
フラリと立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
「どこへ行く?」
「…散歩」
「おい…」
角都は立ち上がりかけた。
「うるせえよ!!」
飛段は角都に背を向けたまま怒鳴り、襖を乱暴に閉めて出て行ってしまった。
「……………」
ひとり部屋に残された角都は、飛段が出て行った襖をしばらく茫然と見つめていた。
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