リクエスト

□嫉妬の味は甘辛く
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夕方、賞金首の仕事を終えた角都と飛段は、とある町に立ち寄り、宿をとった。


陽も沈んだ頃、飛段は空腹を訴え、角都は飛段をつれて宿を出て近くの居酒屋へと向かい、そこで夕食をすることにした。

色街が近いのか、席には、それを生業としている、格好や香水をつけた女達や男達が着いていた。

違う居酒屋にするべきだったか、と思った角都だが、目の前の飛段は構わずにテーブルの料理を頬張っている。


飛段も漂う色んな香水の匂いに最初は顔をしかめていたが、食欲の方が優先され、角都に文句を言うこともなく席に着いたのだった。


「今日のは楽勝だったなァ」


唐揚げを頬張りながら、飛段は今日の仕事について口に出した。

角都は徳利に入った酒を飲み、返事を返す。


「明日はそうはいかんかもしれんぞ。なにしろ、今回の敵より高額だ」

「強い相手だろーが、オレを殺せる奴なんていねーよ。ゲハハッ」

「フン…」


相方の笑いを聞きながら酒をちびりと飲んだとき、


「あら? 角都はん?」


角都は背後から声をかけられた。

振り返ると、赤い着物を身に纏った女がいた。

飛段も角都の背後に立つ美人な女を怪訝そうに見つめている。


角都の顔を見るなり、女は驚いたように口に軽く手を当てて声を上げた。


「あ、やっぱり角都はんやわぁ! 覚えてはります? そこの…」


女が自分の店の方向を指さそうとしたとき、角都は「ああ」と思い出した声を出した。


「数年ぶりだな」

「角都はん、前はよう来てはったのに…」

「来れる機会がなくてな…」


角都が女と話しているとき、テーブルの下で軽く左脚を爪先で蹴られ、飛段に顔を向けた。

飛段は「この女誰だァ?(怒)」という露骨に不機嫌な顔でアゴ先で女を指す。

青筋が浮かんでいるのが角都には見える。


「オレが贔屓にしていた店の女だ」


それを聞いてますます飛段の怒りが募る。


「あら? 相方はん変えはったん? 若いわぁ」


女の視線が飛段に移り、見つめたまま角都に尋ねた。


「オレの連れの飛段だ。飛段、挨拶しろ」

「……どーも(怒)」


顔も不機嫌なら声も不機嫌だ。

笑顔を作ることさえしない。

女は飛段がなぜ不機嫌なのかもわからないまま、再び角都に顔を向けた。


「どうです? またウチの店に来はりますか? サービスしますよ」


角都を誘う女を飛段は内心、鼻で笑った。


(オレがいるのに角都が行くわけねーだろ。バーカァ)


このあと宿に戻ったあとは、風呂に入り、布団の上で相方に抱いてもらうのだ。

互いに快楽を手に入れるうえに、互いの好きな金や宗教は割り込まない。


なのに、角都は頷いて答える。


「そうだな。久しぶりに立ち寄るとするか」

「!?」


予想外の答えに飛段は驚きを隠せず、思わず持っていた箸を落とした。


「おまえも来るか?」


自分まで誘われるのだからその衝撃は大きい。

自分が他の女を抱いても平気なのか、と口には出さずコブシを握りしめる。


「行かねーよ…!」


声も怒りで震えていた。


「…そうか。なら、先に宿に戻って寝ていろ。明日も早い」


店で暴れられるわけにもいかず、角都はあまり刺激しないように言いながら席を立ち、女と肩を並べ、勘定を済ませてから店を出た。


残された飛段は湧き上がる怒りの熱を冷ますように、角都が飲み残した、ガラスのコップに入ったお冷をつかみとり、口に流し込んだ。





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