リクエスト

□歌声よ届け
1ページ/9ページ





降り続く粉雪の中で、歌声が聞こえた。

小さな灯りがふっと消え入りそうな、そんな声だ。


歩道から外れて小さな公園の中へと入り、歌声を追いかける。

近づくにつれ、歌声の内容がはっきりと耳に聴こえてきた。


見つけたのは、雪よりも綺麗で輝いている銀色の髪だった。

耳にはヘッドフォンが当てられ、そこから音が漏れている。


銀髪の若者は噴水前のベンチに座り、音楽を聴きながらその曲の歌を歌っていた。


それをしばらく聴いていた男は若者に近づき、その目の前に立った。

見下ろすと、若者の、見上げた桃色の瞳と目が合う。

それから視線を手首にやった。


「!」


そこにはカッターナイフで切ったような浅い切り傷があり、赤い血を滴らせていた。

ポツポツと足下の雪が若者と同じ瞳の色に染まる。


「なにか用か?」


若者はヘッドフォンをはずし、目の前の男を睨みつけた。

構うな、失せろ、と目で訴えているのがわかる。


「……………」


男は無表情のままその場に片膝をつき、ポケットから黒いハンカチを取り出し、若者の手をとった。


「…!」


若者は驚いた表情を浮かべた。

突然のことに振り払っていいものかと躊躇する。


男は手首の傷を見る。

大した傷ではないが、他にも、塞がりかけの切り傷がいくつかあった。


「なぜ切った?」


男の低い声に若者はビクリと体を震わせ、眉を寄せて答える。


「…別にィ。切りたかったから切っただけだ。生きてるかどうか確認しねーと、やってられねえんだよ」

「歌いながらか…」


若者は苦笑混じりに、「ありゃりゃ、聴かれてた(汗)」と後頭部を照れくさそうに掻いた。


「ヘタクソだったな」


カチンとくる一言に飛段はムッと表情を変える。


「悪かったな、音痴で(怒)」


口を尖らせ、そっぽを向いた。

男は手首にハンカチを結びながら首を横に振る。


「そうじゃない。その歌っている奴らのことだ」


メロディーが流れたままのヘッドフォンを指した。


「……オレは…、割と好きだったけどな…」

「好きだった奴は少数だ。CDの売り上げも低かった。売れなければ話にならん。結果、そのバンドは解散した」


若者は寂しそうにヘッドフォンを見下ろし、流れる曲に耳を澄ませていた。

他人に批判されると、とても痛々しく聴こえる。

若者の一瞥した男は、立ち上がり、再び若者を見下ろした。


「おまえ、名前は?」

「……飛段」


飛段は手首に巻かれたハンカチを見つめながら名乗る。


「いい名前だ。芸名としても使えそうだな」

「…は?」


飛段は角都の顔を見上げた。

先程の男の言葉は聞き間違えではないかとわが耳を疑う。


「オレは角都だ」


角都は懐から名刺を取り出し、飛段に手渡した。


「そんなに奴らの歌が良かったなら、おまえがあとを継げ、飛段」





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ