ある日の夜明け色

□もうひとりのおまえに
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「アイツか? 角都」


年齢は中年で、霧隠れの額当てとアゴの傷が、ビンゴブックに載っている写真と一致している。

それを確認した角都は頷いた。


「そうだ」


時間は昼下がり、場所は平原。

情報通り、標的は単独だ。

標的は2千万の賞金首で、異空間を出現させるという珍しい術を使うため、裏のビンゴブックに載っている。


「気を抜くな、飛段。死ぬぞ」

「だから、それをオレに言うかよ、角都!」


いつものセリフを交わし合い、森から出てきたばかりの標的に向かい、待ち伏せをしていた角都と飛段は直進する。

気配に気付いた賞金首はクナイを両手の指に挟んで構え、2人に向けて投げた。

角都は腕を硬化させ、飛段は鎌を振り回して投げられたクナイを弾き返した。

飛段は角都の横を通り過ぎ、楽しげに声を上げながら賞金首に躍りかかる。

賞金首は、太陽を背に大鎌を振り下ろす飛段から逃れるために後ろへ飛び退き、空振りした大鎌は賞金首が立っていた地面に突き刺さる。

賞金首は飛段の背後に回ってクナイを振りかぶるが、飛段の方が行動の移りが速かった。


ゴッ!


「ぐあ!」


両手で大鎌の柄をつかんだまま、後ろ蹴りを標的の顔面に食らわせる。

吹っ飛んだ方向には角都がいた。

角都は地怨虞を伸ばし、賞金首の体を縛って地面に叩きつける。


「うぐ…!」


賞金首は動く両手で印を結び、術を発動させる。


「!!」


角都と賞金首の間に、小さな空間に裂け目ができ、地怨虞の一部を異空間転移させた。


「異空間転移の術か…」


角都は距離を置いて賞金首の様子を窺った。

賞金首は息を弾ませながら角都を睨みつけている。


「こっちも忘れてもらっちゃ困るぜェ!」


飛段は警戒することもなく賞金首に突進していく。


「飛段! うかつに突っ込むな!」


角都の言葉を無視し、飛段は大鎌を横に振るう。

賞金首は宙へ飛び、大鎌を避けた。

だが、左脚のふくらはぎが刃先をかすった。

飛段はニヤリとほくそ笑み、刃先についた血を舐めようと舌を出し、大鎌の刃先をそれに近づける。

賞金首はその隙を狙い、素早く印を結び、術を発動させた。


「!!」


飛段の背後に大きな空間の裂け目が出来る。


「な…!?」


飛段が振り返ると同時に、漆黒色の裂け目は周りの空気と石や草花などを吸い込んでいく。


「ぐ…!」


吸い込まれそうになった飛段は地面に大鎌を突き立ててそれにしがみつくが、吸引力はブラックホールのように強い。

大鎌は地面を掻き、耐えきれずに外れた。


「…!!」


飛段が裂け目へと吸い込まれる。


「飛段!!」


角都は賞金首に構わず、地怨虞で右腕を裂け目に向けて伸ばした。

吸い込まれそうになりながらも、飛段を引き戻すために限界まで伸ばし続ける。


空間の裂け目が閉じかける。

その時、角都の手がなにかをつかんだ。


「く…!」


それを力の限り引っ張り、裂け目から引き戻した。

見覚えのある銀髪が目に映り、飛段だと確信する。


飛段の体が地面に転がると同時に、ちょうど空間の裂け目が完全に閉じた。


角都の目の端に、土遁で地面の下へと潜って逃げる賞金首の姿が映った。


「チッ…」


それを見た角都は舌を打つ。


「飛段、だからうかつに突っ込むなと…」


右腕を戻して飛段を睨みつけたとき、角都は言葉を切った。


飛段の服装が変わっていた。

胸のはだけたカッターシャツに、ジーンズのズボンを履いている。


「痛ってェ…」


飛段は上半身を起こして顔をしかめながら、地面に打ち付けた背中を擦っていた。


「飛段…、なんだその格好は…」


いつもの外套姿ではなくなっている。


角都は怪訝な目を向けながら飛段に近づいた。


飛段は角都を見上げ、驚いた顔をした。

警戒の目を向け、唸るように言う。


「な…、なんだよ、てめー」

「…なんだと?」

「つか…、なんだよここ…! おまえが連れてきたのかよ!?」


飛段はいきなり見知らぬ場所につれてこられたかのように辺りを見回した。


角都は背中に冷たいものを感じた。


見た目は飛段であるが、飛段ではない、と。


(誰だ、こいつは…)





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