リクエスト

□瞳を閉じて
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思わず両手で口を押さえ、声とともに息を止めた。

耳を澄まし、ゆっくりと近づく足音に集中する。


「か…、角都…」


明らかにこちらに向かってきているため、飛段は小声でその名を呼んでみた。

だが、相手からは返事はない。


その場から逃れようと立ち上がり、走り出し、そして木の根につまづいて転びそうになる。


「あっ!」


その時、肩をつかまれ、引き寄せられた。


「オレの気配も読めないのか、馬鹿が」


その声に飛段の不安が全身から抜け落ちる。


「角都…」


手を伸ばし、頭巾、口布、わずかに見える肌に触れ、改めて本物の角都だと認識する。

角都は飛段の目を覗きこみ、両目から流れたと思われる乾いた血を見た。


「目を潰されたか。油断したな」

「うるせー。なんでさっさと来ねーんだよ。なんで返事返さねーんだよ。オレてっきり敵かと…」

「オレもだ。今まで、あんな泣きだしそうな声でオレを呼んだことがあったか」


敵の変化の術かもしないと思ったから返事を返さなかった。

間抜けに転びそうになったその姿を見るまでは。

自分はどれだけ情けない声だったのだろうか、と飛段は顔を真っ赤にする。


「…おまえがいつまで経ってもこないから…、その…、置いてけぼりにされたのかと…」

「なぜオレが貴様を置いていかなければならない? オレの相棒は貴様しか務まらない。前にも言ったはずだ、飛段。簡単に置いていくものか」


理由はそれだけじゃない。

それに角都も不安を抱えていた。

いつか飛段が己のもとから離れてしまうのではないかと。


「…そっか…。ゲハハッ、そっかァ…」


その言葉に飛段は安堵とともに嬉しさを覚えた。


「おめー、ホントに角都かよォ」


笑いながら冗談混じりに言ったつもりだったが、


「体で確かめてみるか?」

「いやいや、冗談だって、ちゃんと角都だとわかって…」

「飛段」


真剣な声に飛段ははっとし、笑いを止めた。


「角…、んっ」


いきなり両頬をつかまれ、口布のままキスをされた。


「ふ…ぅ…っ、ちょ…、角都…!」


飛段は思わず角都から離れ、後ろに下がったが背後の木に背中をぶつけてしまった。

角都は飛段の顔を挟むように両手を木につけ、飛段の逃げ場を奪う。


「飛段、オレから離れるな」


口布を外して耳元でそう呟き、飛段の唇に吸いついた。





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