+++ story @S +++
□remember
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「誰?」
武瑠の冷たい声。
また今日も同じ台詞から始まる。
「“ちゆ”だよ。」
「ちゆ?」
「ん、ちゆ。武瑠の友達。」
「たける…?」
「お前の名前。」
「たける…。」
武瑠は真っ白な部屋の真っ白なベッドで上体だけ起こして漫画を読んでいた。
これもいつもの光景。
でも今日は調子が良いみたいだった。
まだ9時なのに読んでるのが5巻だったから。
武瑠の脳は武瑠が眠るたびにリセットされる。
それまでの思い出、友達や知り合いの名前、自分の名前や過去…。
そして読んだ漫画の内容も。
人間が生きていくうえで必要最低限な知識はリセットされないのに、何故かその他の事は綺麗に忘れてしまう。
原因は不明だった。
「今日は林檎持って来たんやで?武瑠林檎好きやったよな?」
「林檎…好き…?」
俺はまだ警戒を解かない武瑠に、切って持って来た林檎を渡した。
「ほら、食べてみ?」
自分も林檎を食べながら微笑んで武瑠に林檎を勧める。
武瑠は恐る恐る林檎をかじった。
「…林檎、美味しい。」
「やろ?俺ちゃんと武瑠が林檎好きやって覚えとったもん。」
俺がにこっと微笑めば、心なしか武瑠も微笑った気がした。
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